2015年12月5日土曜日

暗算こそが我が人生


今日も初対面の人から「冷蔵庫の中身、すぐに賞味期限切れさせそうだよね」って言われたあたしだけど、こう見えて暗算はけっこう得意。
だって日能研に通ってたから。
毎週月曜日は行きたくないって泣きながら通ってたから。

買い物をして、代金が678円になったとするよね。
財布を見たら、小銭がけっこうたまっている。
しめた、って思う。
“ごはんを炊くのが上手”と並んであたしの数少ない特技である暗算能力を使うときがきた!

あたしは瞬時に計算して、財布から1233円をとりだして、レジに置く。
いや、置くんじゃない。たたきつける。
びたんっ。
王手!

レジ係は怪訝な顔をするよね。
678円だっつってるのに何こいつ1233円とか出してるの、まじ意味わかんねーし、義務教育受けなおしてこいよ、って顔してる。

でもあたしは涼しい顔。
まあいいからレジ打ってみなさいよって。
そんな顔をするし、調子づいているときにら実際に口に出して言う。
「いいから打ってみなさいよ」

レジ係は、このはし渡るべからずの橋を堂々と渡りはじめた小坊主を見たときみたいに「解せぬ!」って顔するんだけど、そうはいっても客であるあたしには逆らえないわけよ。資本主義バンザイ。

首をかしげながら預り金額を入力するレジ係。
「1」「2」「3」「3」「小計」

そして液晶画面に明々と表示されるおつり。

“ ¥555 ”

決まった……!
どやさっ。

678円の請求に対してあたしが1233円出したとき。
おつりが硬貨3枚ですむなんて、このレジ係はたとえ頭の片隅でも想像しただろうか。
いいや、してないね。
義務教育受けなおしてこいよと思っていた(にちがいない)レジ係に対して、あたしは声を大にして言ってやりたい。
義務教育受けてましたけど?
それどころか日能研通ってましたけど?
泣きながら?

ところで、あなたの人生の最大の晴れ舞台っていつ?
結婚式? 大学の合格発表? 甲子園に出たとき? 紫綬褒章もらったとき?

あたしは今、このとき。
555円のおつり表示を前にして
「こ、こ、こ、こいつ……。できる……!?」
って脳内であたしにひれ伏している(にちがいない)レジ係に向かって、そら見たことか! って尊大な顔をしているとき。

すばらしきかな我が人生!

2015年12月4日金曜日

【考察】潤滑油は百薬の長

自転車が錆びついたから油をさしたら、ブレーキのとこにまで油が入り、摩擦がなくなってブレーキがまったく利かなくなって痛い目に遭ったことがある。

「酒は人間関係の潤滑油」とはよくいったもので、たまに利かなきゃいけないブレーキまで利かなくなるところまで一緒だ。

2015年12月3日木曜日

【エッセイ】おしりやぶれかぶれ

ひさしぶりの再会というのはたいてい心おどるものなんだけど、でも中にはもうこいつとは一生かかわりたくない! ってやつもいるわけ。
でもそういうやつにかぎって再会しちゃうんだよね。

なんでこんなことを言いだしたのかというと、またしても破れちゃったわけ。
スーツのズボンのおしりのとこが。
びりっと。

テレビから地震速報の音が聞こえてきたら一瞬でそっちに意識もっていかれるけど、その音よりも鮮明に「びりっ」て聞こえたからね。

いやー。まさかまたズボンのおしり破れに遭遇するとは。
4年ぶり2回目。
甲子園でいったら、地方の商業高校ぐらいのそこそこの強豪校だよね。

4年前に破れたときは、会社早退したからね。
いや、冗談じゃなくほんとに。
そりゃあ12時におしり破れたら、午後から仕事にならないでしょ。立ち仕事だったし。
ワタミの社長ですら「大丈夫か。今日ははやく帰れ」って云うでしょ。

二親等が死ぬぐらいの出来事だからね、おしり破れるってのは。
余裕で忌引き休暇使いましたよ。嘘だけど。
で、半べそで帰宅しましたよ。ええ。

前回はしゃがんだときに破けたんだけど、今回は椅子に座ろうとしたとき。
 
どっこいビリッしょー!!
ってな感じで豪快にいっちゃいましたわ。
 
まさかこんな大災害が待ち受けているなんて。
今朝のニュースでは、波浪注意報と強風警報だけしか出てなかったから、おしり破れについてはなんの対策も講じてきていない。
事前に言ってくれたらアップリケぐらいは用意してきたのに。
お天気お姉さんの役立たず!

けれども不幸中の幸いで今回は破けたのが夕方だったから、武田信玄の教えを守って終業時間までじっとやり過ごすことができた。

立ち上がってからコートを着るまでのはやきこと風の如し。
人目につかぬようそっと動くこと林の如し。
恥ずかしくて赤面すること火の如し。
傷口が広がらぬよう動かざること山の如し。


ということで、コートでおしりを隠しながら、なんとか無事に帰宅することができたわけです。
コートの季節でよかった。

「今日は冷えこみがきつくなるので長めのコートを着てお出かけください」
といってくれたお天気お姉さん、さっきはごめんなさい本当にありがとう!

2015年12月2日水曜日

【エッセイ】エッチに関するルールについて

 そうはいってもぼくはいたって生真面目な人間だから、法律や規則は極力守るように努めている。
 無人の野菜販売所でもきちんとお金を払うし、よほどのっぴきならない状況にならないかぎりは立ち小便だってしない(つまり先週金曜の晩はのっぴきならない状況だったということになる)。



 ここで突然だが、性の話をする。

 おっと。
 ぼく自身の名誉のためにことわっておくが、「性」といっても、社会的な性差をあらわすジェンダーだとか、生物学的な男女のちがいといった意味の「性」ではなく、もちろん、やらしい意味での「性」の話だ。

 小学生のとき、男子が女子と仲良くすることは、戦争と同じくらいの「悪」だった。

 女子と仲良くするやつはエロい、
 エロいことはいけない、
 したがって女子と仲良くするのはいけない。
 この一分の隙もない三段論法は、神聖ニシテ侵スベカラズ鉄の掟として男子小学生の世界を統べていた。
 優等生だったぼくはもちろんその掟を愚直に守り、憎まれ口以外の言葉を女子との間に交わすことはなかった。

 それがどうだ。
 ぼくの預かり知らぬところで、いつのまにやらルールが変わっていた。
 女子と話すなんてかっこわりい、と云ってたやつが、女の子と手をつないで一緒に帰るようになっていた。
 おれエロいことになんて興味ねえし、と云ってたやつが、どうやらスカートめくりよりももっとエロいことを女の子と楽しんでいるらしかった。
 エロいやつは蛇蝎のごとく蔑まれていたのに、ぼくが気づいたときには、エロいことをしたやつのほうが偉いという風潮に変わっていたのだ。
 なんたる価値観の転換。

 昭和二十年八月十五日。
 敗戦を機に、軍国主義から民主主義へと世の中が一変した戦後の日本人もこんな感覚を味わったのだろうか。
 いや。
 彼らには玉音放送というターニングポイントがあった。
 しかしぼくの場合、気づかぬ間に世界のルールが変わっていたのだ。
 終戦を知らずにジャングルで隠れていた横井庄一さんが真実を知らされたときの気持ちだ(のはずだ)。

 いったいいつのまに。
 あれか。
 たまたまぼくが風邪で学校を休んだときに、学級会で話し合いがもたれて、
「それではー、エロいことをした人のほうがー、かっこいいということになりましたー。賛成の人は拍手をしてください!」
みたいな議事があったのか。
 ぼくだけ聞いてないぞ。
 あんまりじゃないか。
 学校を休んだときは近くの家の人がプリントを届けることになってるのに。
 そんな大事なおしらせが、ぼくにだけ届いてない。

 おかげでぼくは今も、女の人と話すことに後ろめたさを感じてしまう。
 会社で女性社員と雑談をしているだけで、
「うわー、あいつ女と仲良くやってるゼー」
なんて後ろ指をさされるんじゃないかという気がしてならない。



 とまあ、突然のルール変更に苦しんだ経験があるから、なるべくならルールは変えないでいただきたいというのがぼくの信条だ。
(以上、「憲法改正に対するあなたのお考えをお聞かせください」という質問に対する回答)


2015年12月1日火曜日

【エッセイ】プロ野球カードゲーム

プロ野球カードゲーム。
ぼくが小学生のとき、死ぬほど遊んだゲームだ。

タカラから発売されていて、1球団が1セットになっていて618円(本体価格600円。当時は消費税3%)。
1セットに、30枚ほどの選手カードが入っていた。
カードの表は、選手の写真と昨年の成績。
じつはここはほとんど意味がない。
大事なのは裏面だが、それについては後ほど説明する。

ぼくが持っていたのは、1993年版の西武、阪神、巨人、ヤクルト、中日、広島。
なぜこの6球団だったのかというと、

・マンガ『かっとばせキヨハラくん』の影響で西武ファンだった
・当時はほんとにセ・パの格差がひどく、パ・リーグにスター選手はほとんどいなかった(イチローが活躍する少し前だ。せいぜい清原、野茂、伊良部ぐらい)
・セ・リーグの中でも横浜は特に不人気だった

というような理由が挙げられる。

その中でもやはり西武ライオンズはお気に入りだった。
93年の西武といえば、黄金期の呼び名にふさわしく、圧倒的な強さを誇っていた。
なにしろその前年、パ・リーグのベストナインは10人中8人が西武の選手、ゴールデングラブ賞も9人中8人は西武だった。
渡辺久、工藤、伊藤勤、秋山、石毛、田辺と後に監督になるほどの選手を6人も抱えており、さらに走攻守三拍子そろった名手辻(1塁走者だったのにシングルヒット一本で本塁生還しちゃうんだぜ)、バントの達人・平野、鈴木健など、いい脇役もそろっていた。
そこにくわえて4番に清原、中継ぎと抑えに潮崎と鹿取。それを智将・森監督が率いているわけだから、ほんとに隙のないチームだった。


話がそれた。あの頃の西武の強さについて語ると止まらなくなるので、このへんでプロ野球カードゲームの説明に戻る。

ゲームの進めかたはこうだ。
プロ野球カードゲームはふたりで対戦する。
守備側と攻撃側がサイコロ(別売)をそれぞれ1個ずつ振る。
出目の合計が7ならファール、6以下の偶数ならストライク、5以下の奇数ならボール(ちなみにこれは何も見ずに書いている。最後に遊んだのは20年ほど前なのにまだ細かいルールまで覚えていることに自分でも驚いた)。
そして2つのサイコロの合計が8以上ならヒッティングとなる。今度は攻撃側が2個のサイコロを振る。
ここではじめて打者カードの裏を使うときがきた。
そこには、出目の組み合わせによるヒッティングの結果が書いてある。
2・6→レフト線2塁打
4・5→サードゴロ
6・6→ホームラン
など。
1・2と2・1は同じものとして扱うため、サイコロの組み合わせは全部で21通り。つまり21通りのヒッティング結果があるわけだが、その内訳は選手によって異なる。
打率の高い選手だと安打になる組み合わせが多い、長距離打者は本塁打の組み合わせが多い、三塁打が発生するのは足の速い選手だけ、など。

さらに選手には走塁のパラメータもあり、「二盗」「犠飛で本塁生還」「一塁からツーベースヒットで生還」などが成功するかどうかもサイコロの組み合わせで決まる。もちろん足の速い選手ほど成功の確率は高まる。

とにかくカードとサイコロだけですべてが決まる、シンプルながらじつに奥深いゲーム。それがプロ野球カードゲームだ。


このゲームにぼくは夢中になった。
友人と対戦することもあったが、ひとりでやることのほうが圧倒的に多かった。
サイコロでほとんどすべてが決まる(意志が入るのは送りバントをするかどうかとか代打を出すかなどの采配の部分だけだ)。だからひとりでやったとしても、どちらが勝つかはわからない。

ぼくは、ひとりで毎日チンチロチンチロとサイコロを振り、6球団によるリーグ戦をおこなった。
各チーム50試合ずつのペナントレースを戦わせ、スコアブックもつけて、首位打者や最優秀防御率などのタイトル争いもおこなった。
スコアを記録したノートは数冊にのぼった。


だが、どんな遊びもいつかは飽きる。
いつしかプロ野球カードゲームにも飽きて、ひとりでサイコロを振ることもなくなった。

そして数年後。
高校数学で『確率』の分野を学んだぼくは、こうつぶやかずにはいられなかった。
「えっ、かんたんすぎる……」

なにしろ毎日毎日サイコロを振っていたのだ。
2つのサイコロの出目の合計が10になる確率が1/12であること、ゾロ目が出る確率が1/6であることなんかは、数多の経験からとっくに導き出していたのだ。
さらに打率や防御率も算出していたので、計算も得意になっていた。
『確率』の分野においては当然テストも満点だった。


楽しく遊べて確率の勉強もできるプロ野球カードゲーム、今では販売していないようだ。
残念でならない。
もしぼくの子どもが将来野球を好きになったら、手作りでプロ野球カードゲームを作ってやろうと思う。