2018年3月14日水曜日

【読書感想】みうらじゅん『正しい保健体育II 結婚編』

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『正しい保健体育II 結婚編』

みうらじゅん

内容(Amazonより)
童貞時代を生き抜くためのスタンダードにして、性教育の金字塔との誉れも高い授業が、ここに再始動!
<結婚編>と銘打った本書『正しい保健体育II』では、夫婦生活や子育て、そして老後といった「ゆりかごから介護まで」の諸問題を、みうら先生が深くやさしくレクチャーします。
結婚を幕開けに移り変わりゆくライフステージを、文化系男子はどのように過ごすべきか!?未婚、晩婚、少子高齢化時代の日本を救う新たな伝説の書、誕生!!

前作の『正しい保健体育』がべらぼうにおもしろかったので読んでみたが、うーん、期待はずれ……。前作が良すぎたせいもあるんだけど。

前作ではふざけながらも真正面から「性」に向き合っていて、みうらじゅんらしい「セックスとのつきあいかた」が書かれていたんだけど、『結婚編』ははぐらかしばかりで、どうも真剣に向き合っているように思えなかった。

「結婚は介護してくれる人を見つけること」「スリルを求める浮気はしたほうがいい」なんてマッチョな思想と、みうらじゅんのふざけきった文章があんまりなじまない。みうらじゅん自身は不倫して離婚して二十歳近く若い女性と結婚したから、まさにこの思想を体現しているんだけど。

『正しい保健体育』は「童貞はどう性と向き合うべきか」という明確な軸があったんだけど、『結婚編』にはそういった視点がなく、何を語ってもどうも収まりが悪かったなあ。




通して読むと何が言いたいのかわからないけど、部分部分で見るとみうらじゅんならではの独自の哲学がくりひろげられていて感心するところもあった。

「モテる」と「モテモテ」は違います。「モテモテ」というのは、品のない男にしか
できないことだからです。
 君たちの多くは女性を好きになります。顔を好きになったり、会話をすることが楽しか ったり、会えないときも彼女のことを考えたりします。
 しかし「モテモテ」の人は違います。そんなことを考えていては、「千人斬り」などできません。それどころか、相手の女性のタイプなどを気にすることもないのです。とにかく次から次へと手を出していくから、「モテモテ」になるわけです。

この文章、「モテモテ」でない男の憎悪と偏見がよく出ているなあ。やはり「モテモテ」とは縁遠いところにいるぼくとしても、うなずかざるをえない。
こういう人、いるよね。女と見ればあたりかまわず手を出そうとする人。
「女性経験人数が多い」ってのはだいたいこういうタイプだよね。確率が高いわけじゃなくて、母数が多い。10,000人に声をかけるから、成功率1パーセントでも経験人数100人というタイプ。
経験人数が多い、ってのはモテるかどうかよりも「どれだけ多くの女性に声をかけたか」で決まるんだろうね。

そう考えると「モテモテ」もあんまりうらやましくないな。やっぱり「自分からは何もしないけど美女が言い寄ってくる」タイプのモテ方が理想だよね。少女漫画とAVの中にしかないやつ。




みうらじゅんの考える少子化の原因について。
「セックスレス」という横文字の言葉こそが少子化の原因だと。

 おわかりでしょうか。これは誰かが仕掛けたことです。洗脳なのです。国益のために誰かがこの言葉を流行らせています。昔ながらの「最近、女房とご無沙汰だよ」という言い方だったら、ここまで少子化は進まなかったでしょう。
 クンニリングスが流行ったのも、その言葉があったからです。「陰唇しゃぶり」だったら、ここまで男はクンニをしたでしょうか。フェラチオも同様です。「陰茎くわえ」では、女性も好んでしたいとは思わなかったことでしょう。
 言葉にだまされているということに気がつけば、それが政府の陰謀だと気がつけば、夫婦のセックスが減ることはありません。その言葉のかっこよさに加えて、「外でやってる」という見栄の相乗効果で、セックスレスは流行ってしまいました。

めちゃくちゃな陰謀論だ。
でもこれはこれで一理あるかもしれない。
言葉の持つ力ってあなどれないよね。違法残業をサービス残業と言い換えたり、強制わいせつをセクハラと言い換えたり、軽い言葉にすることで罪の意識も減るということはたしかにある。

政治家の仕事のひとつに「名前をつける」という行為もあるとぼくは思う。
「もはや戦後ではない」だとか「国民所得倍増計画」だとか、むずかしい言葉を使わずに直感的に施策をイメージさせるのは政治家にとって大事な資質だろう(考えたのは政治家本人ではないかもしれないが)。

「働き方改革」だとか「プレミアムフライデー」だとか、結局何が言いたいのかわからない、それどころか何かをごまかそうとしているようにしか思えないフレーズを聞いていると、最近はうまいネーミングをつける政治家(または官僚)が少ないのかもなあと残念に思う。

ああいう能力は女性政治家のほうが長けてるのかもしれないね。田中真紀子、蓮舫、辻元清美あたりは寸鉄釘を刺すようなフレーズ選びがうまかったもんなあ(ただし攻められると弱いのも彼女らに共通する特徴かもしれない)。

ワードセンスのいい政治家が現れてほしいなあ。で、鮮やかなコピーで高齢化に対する危機感を高めてほしい。


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