2017年11月2日木曜日

家なんてしょせん家/牧野 知弘『マイホーム価値革命』【読書感想】

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『マイホーム価値革命
2022年、「不動産」の常識が変わる』

牧野 知弘

内容(e-honより)
2022年、広大な面積の生産緑地が宅地となり、団塊世代の大量の「持ち家」が賃貸物件に回ることで、不動産マーケットが激変する。日本の3分の1が空き家になる時代、戸建て・マンションなどマイホームの資産価値を高める方策はあるのか?空き家問題、タワマン問題で注目を集めた不動産のプロが新たなビジョンを提示する!

数年前、家を買うことを検討していた。
父親はバブルのさなかにローンを組んで一戸建てを買ったし、ぼくが育ったのは郊外の住宅地なので周囲も分譲一戸建てだらけで、大人になったら当然家を買うものだと思っていた。

新築建売住宅を見に行ったり、新築マンションのショールームに行ったり、不動産屋といっしょに中古マンションを見てまわったりした。

でも夫婦そろって優柔不断なのと、今の家(借家)にこれといった不満もないこともあってなんとなくふんぎりがつかず「まあ今のとこでいっか」ってな感じで今も借家に住みつづけている。

いやでもさ、世の中の人ってよく土地や家やマンションを買えるよね。

だって何千万円もの買い物だよ。
ぼくなんかたかだか2,000円ぐらいの毛布買うのに、いろんなサイト見て、寝具売場にも足を運んで、1ヶ月ぐらい迷って、そんでまだ買ってないからね。そんぐらい優柔不断だからね。

毛布ですらそれなのに、マンションなんて一度も住んでみることなく、へたしたら中身を見ることもなく(新築マンションはだいたいそう)決断しなきゃいけないんだよ。

無理じゃない? 最低でも一年ぐらい住んでみないと決められなくない?

もう博打だよね。結婚と一緒で。



あとさ、新築マンションのショールームを見に行ったことある人なら知ってると思うけど、広告宣伝費えげつなくない?

電車広告出して、SUUMOとかにも広告出して、どっかの土地借りてじっさいに住めるぐらいのモデルルームつくって、そこに最高級の家具を置いて、受付の人と営業社員を常駐させて、見にきた人には電話しまくってダイレクトメール送りまくってるんだよ?

どんだけ金かけとんねんな。
そして、どんだけマンション販売価格に広告宣伝費が上乗せされとんねんな。

宣伝やめたら1,000万円ぐらい安く売れるんじゃないの?
ゼロにするのは無理でも、四分の一ぐらいにはできんじゃないの?
ぜったいそっちのほうが買う人はうれしいだろうにね。

……みたいなことを考えたら家を買うのがばかばかしくなっちゃった。




というわけで牧野知弘さんの『マイホーム価値革命』を読む。
同じ著者の 『空き家問題』がめっぽうおもしろかったので(感想はこちら)期待して読んだんだけど、期待を裏切らない本だった。
いやあ、勉強になった。

そして、やっぱり不動産なんて持つもんじゃないな、って思いを強くした。

 かつては「ファミリー向けの賃貸住宅はない」などと言われてきましたが、第一章で解説したように、2022年を境に、団塊世代が購入した郊外ベッドタウンの家が一気に賃貸物件として不動産マーケットに登場するでしょう。東京でいえば、世田谷や大田、杉並といった都区部の住宅も大量に出てくることが予想されます。
 さらに「空き家第二世代」以降は、マーケットのニーズを汲み取る不動産会社やオーナーが増え、ファミリー向け賃貸物件が多く開発されることになるはずです。ワンルーム住宅ばかりを過剰供給する時代は長く続かず、「供給者の論理」はやがて淘汰されていきます。「高齢者は賃貸物件を借りられない」というもっともらしい理屈も、それほど心配する必要はなくなるでしょう。賃貸住宅大量供給時代はもうすぐそこです。競争が激しくなれば借り手は優位に立つことになりますので、貸し手側の大家も年齢で制限するような余裕がなくなってくるはずです。
 これからの時代、生涯を賃貸住まいで暮らす生き方は選択肢の一つとして定着し、マイホームをあえて「持たない」ことは、新たなライフスタイルになります。今まで「住みたいファミリー向け物件が見つからない」と嘆いていた人にとっても、いい時代になりそうです。

家の価値がどんどん上がっていた時代は、マイホームを買えば家賃を払わずに住めるし、おまけに持っているだけで価値が上がっていたから、少々高い住宅ローンを組んででも買ったほうが得だった。

ところが今後、長期的に値上がりを続ける物件はない。
ほとんどは下がる。
日本から人はどんどん減るし、大きな家を必要とする若い人はもっともっと減るし、2022年問題っていう生産緑地制度とやらに関連するアレのせいで土地や家は余る一方になる。
いくら不動産業界の人がSUUMOに広告載せて、マンションポエム書いても、需要が少なくて供給が多いんだから売れない。価格は下がる。

となると消費者がとる選択は、消耗品と思って住みやすい家を買うか、投資と思うなら短期的に値上がりしそうなところを買って早めに売り抜けるかだ。
要は「住む」か「売る」かで(あと「貸す」もあるけど)、昔のように「住んでから売る」で儲けることはまず無理だ。

しかし「売る」で儲けるのはリスクが大きいし、いかにも難しそうだ。
先のことを読まなければならないし、おまけに海外からもかんたんに買えるようになっているので世界中の投資家と競争しなければならない状況なのに、ど素人のぼくが勝てるとはとうてい思えない。
そんな博打できるぐらい心臓強かったらとっくに家買っとるわ。



そんで自分が住む家として考えたら、買うよりも賃貸のほうがいいと思うんだよね。
以前はやっぱり「俺の家を持ちたい!」って気持ちもあって、それは今でも持ってるんだけど、それ以上に家を持つリスクって大きいなと思うんだよね。

転勤とか隣人トラブルとか自然災害とかのときにすぐ動けるほうがいいのかな、と。

「隣にめんどくさい人が越してきた」とか「子どもが学校でいじめられてる」とかなったときに、「でもせっかく買った家だから……」という理由で引越しをためらっているうちにとりかえしのつかない事態になっちゃうかもしれない。
そんなときに「しょせん家なんてただの寝るスペースだから」ってなぐらいの気軽さでさっさと動ける人間でありたいなーと思う。


そんなふうに思うようになったいちばんのきっかけは、ぼくのおばあちゃんに関する話。

おじいちゃんが死んだとき、母はおばあちゃんに「うちの近くに引っ越してきたら? 気軽に様子を見に行けるほうが安心だし」と声をかけた。
でもおばあちゃんは「せっかく買ったマンションだからここにひとりで住む。おじいちゃんの思い出もあるし。わたしは元気だし」と言って一人暮らしをして、ほとんど誰とも話さない暮らしをした結果、一年ぐらいであっという間に認知症になってしまった。
孫のことも娘のことも忘れて、しょっちゅうものがなくなった泥棒に入られたんだって警察に電話して、外出したら家に帰らなくなるような絵にかいたような認知症。
やさしいおばあちゃんだったからつらかったよ。つらかったよって過去形で書いたけどまだ生きてるんだけどさ。

たらればを言ってもしょうがないんだけど、もし「一緒に住まない?」って声をかけられたときにおばあちゃんが賃貸住宅に住んでいたら、二の足を踏むことなく早めに引っ越していて、もうちょっと頭も元気でいられたのかもしれないなーと思う。いやどっちみち引っ越さなかったかな。


マイホームでも賃貸住宅でもいいんだけど、家なんてしょせんは地面と箱なんだし、それに固執してしまうがゆえに重要な決断を誤ってしまうようなことだけは避けたいなーと思うね。


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牧野知弘 『空き家問題』




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