2017年10月30日月曜日

タンクトップジャージャー麺

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北京にいたとき、ジャージャー麺屋さんに行った。

今はたぶん様変わりしているんだろうけど、15年前の北京ってほんとに田舎街で、小さな商店がたくさんあるばかりで、マクドナルドもスターバックスも市内有数の繁華街に数店舗あるぐらいだった。

飲食店も夫婦と子どもでやっているような零細店がほとんどで、だから友人から「有名なジャージャー麺屋さんがあるらしいよ」と聞いたときも、「どうせ隣近所の間で有名ってぐらいでしょ」と半信半疑だった。

店につくと、なるほど50席ぐらいはある大きな店で、しかもほぼ満席で、たしかに北京ではめずらしいぐらいの有名店といってよさそうだった。

ぼくがまず驚いたのは、店内にはいるなり店員たちが一斉に何事かを叫んだことだった。
おそらく「いらっしゃいませー!」的なことだと思う。

それでなぜ驚くのかと思われるかもしれないが、北京の店ではまず店員があいさつなどしなかったのだ(今はどうかしらない)。

釣銭を投げて渡す、隙あらば釣銭をごまかそうとする、何か質問すると「はぁ?」という挑発的な返答がかえってくる(これは中国語で「え?」ぐらいの意味なのだが、語調が強いのもあいまってとにかく威圧感がある)など、北京人の接客態度はとても感じがいいとはいえず、まあそれはそういう文化だからべつにいいんだけど、それに慣れきっていたのでいっせいに「いらっしゃいませー!」を言われて思わずひるんでしまったのだ。

はじめてブックオフに入ったとき以来の衝撃である。

威勢の良い接客、明るく清潔な店内。日本ではあたりまえの光景だが、北京では異様に思えた。


しかし、そのジャージャー麺屋さんにはもっと驚くべきことがあった。

ホールには15人ぐらいの店員がおり(50席程度の店にしては多すぎる)、しかもそれが全員18歳ぐらいの長身のイケメン男性であり、さらには彼らの服装が一様に真っ白なタンクトップだったことだ。

一瞬、目がくらくらした。
これはどういう状況なんだろうか。
この店の情報を仕入れてきた友人に目をやると、彼もまたタンクトップについてはまったく知らなかったらしく、困り笑いを浮かべながら目を泳がせている。

風俗店なのかも、と思った。
当時の北京では風俗店が目くらましのために美容院の看板を掲げていた。
そういえば中国は宦官制度を生んだ文化の国でもある。
これはそういう性癖の人向けのいやらしい店なのかもしれぬ。ノーパンしゃぶしゃぶならぬタンクトップジャージャー麺なのかもしれぬ。

しかし見たところ、他のテーブルではみなふつうにジャージャー麺をすすっているし、ジャニーズJr.のような店員の少年たちは威勢がよいだけでちゃんとオーダーをとっているし、おさわりをされたりタンクトップの隙間に人民元紙幣をはさまれたりもしていない。

というわけでなにがなんだかよくわからぬままにジャージャー麺をオーダーし、狐につままれたような気分のままさわやかなタンクトップ少年が運んできたジャージャー麺をすすった。


めちゃくちゃうまかった。
さすがは有名店、と思った。北京滞在中に食べた食事のなかでいちばんおいしかった。

しかし疑問は余計に増した。
味だけでも十分に勝負できるだろうに、なぜこんな安っぽい話題作りのようなことをしているのだろうか。
オーナーの趣味なのだろうか。


あれから15年。
あれ以来ぼくはジャージャー麺を好きになり、機会があればジャージャー麺を注文するが、いまだにあのときのジャージャー麺を超える味には出会っていない。

日本にもタンクトップの美少年たちがあふれるジャージャー麺屋さんが上陸してくれることをぼくは心待ちにしている。いやそういう意味じゃなくて。


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