2017年3月7日火曜日

【エッセイ】結婚はポイント還元もないし

そうだ、ノートPCを買おう。



で、電器屋に行ったりいろんなサイトを見たりしたけど、結局よくわからない。

店頭だとサイズ感やキーボードの押し心地はわかるけど、実際の動作速度はわかんないし、性能比較もしにくい。

ネットだとその逆。

口コミはある程度参考になるけど、ゲームもしないし動画編集もノートPCではやらないから、グラフィックの美しさとかを熱弁されても......ってなっちゃう。
そこはどうでもいいや、って。


結局、詳しい知人に相談することにした。
「こういう用途に使おうと思っていて、画面は大きめがよくて、このへんの機能はなくてもいい」
って条件を並べて、「だったらこの中から選べばいいよ」って言ってもらって、最後にキーボードの押し心地だとか本体のデザインとかで選んだ。



パソコンを買うっのてたいへんだなあ。
でも、結婚相談所に登録して結婚相手を選ぶことにくらべたらぜんぜんたいしたことないよね。

パソコンはスペックが一覧表になっているし。
そもそもメーカーが公表しているスペックが真実かどうかを疑う必要はないわけだし。
「料理が得意って言ってたのにお菓子しか作ったことないじゃないか」みたいな嘘はないですから。

パソコンも徐々に動作性能が落ちていくけど、結婚みたいに成約前と成約後で豹変する、なんてことはないですしね。。

それにパソコンだったら実際に使ってる人の話を聞けるけど、
「あなたの奥さんどんな人ですか。へえ、よさそうですね。じゃあぼくもそれにします」
ってわけにはいかないし。

パソコンを買うのに失敗したってせいぜい数万円の損失だけど、結婚はそうはいかんし。


なによりパソコンは、「じゃあこれにしよう」って決めたら、在庫切れでないかぎりは「あなたにはお売りできません」って断られることはない。


相談所で無事に結婚相手を見つけた人って、その決断力があれば、パソコンを買うときなんて、電器屋に行って1秒で「これください」って言える人でしょ。


2017年3月4日土曜日

【読書感想文】 吉田 修一『元職員』

吉田 修一『元職員』

内容(「BOOK」データベースより)
栃木県の公社職員・片桐は、タイのバンコクを訪れる。そこで武志という若い男に出会い、ミントと名乗る美しい娼婦を紹介される。ある秘密を抱えた男がバンコクの夜に見たものとは。

実在の事件である 青森県住宅供給公社巨額横領事件 を元にした小説。
事件のことを覚えている人は少なくても、当時ワイドショーをにぎわせた「アニータ」さんの名を覚えている人はけっこういるかもしれないね。



小説に"意味" や "楽しさ" だけを求める人にとってはキツい小説だろうね。
出てくるやつは主人公筆頭にクズばっかりだし、救いはないし、教訓もないし、楽しいストーリーも含蓄に富んだセリフも意外な展開もないし。
うわあ。なんでそんな小説読むのって言われそうだなあ。でも楽しいだけが小説じゃないからね。
嫌な話を追体験することこそ小説じゃないとなかなかできない。新聞やテレビには「救いのない嫌なだけの話」はないからね。
嫌な話は視野を広げるのに役立つって話もあるしね。今ぼくが作ったんだけど。


この本を読んだ後にAmazonのレビューを見たんだけど、小説の読み方を知らない人って多いよね。
いや小説に決まった読み方なんてないんだけど。
でもさ。「こういう行動をとるべきなのになぜ無駄なことばっかりしてるんだ」「あそこのエピソードがどう回収されるんだろうと思ってたら伏線ほったらかしかい」みたいなレビューが並んでるのを見て、がっかりしたというか。
本屋大賞とか芥川賞受賞作とか村上春樹のレビューだったらわかるんだけどね。ふだん本読まない人もいっぱい集まる場だから。

でも吉田修一のハードカバーを買うぐらいだからけっこうな本好きだろうに、そんな人でも「すべての本の登場人物は合理的で無駄のない行動をとらなくてはならないし、すべてのエピソードには意味がないといけない」と思ってるってことに、ため息しか出ない。
本格ミステリに関してはほぼその通りなんだけど、小説なんて無駄の積み重ねでしょ。そもそも小説自体が人生においてなくても生きていけるものなんだから。



ところで『元職員』だけど、まあ嫌な小説だねえ。悪口じゃなくて。

ぼくはときどき嫌な夢を見るんだけどね。だいたい、自分が悪いことをして追われているという夢。
万引きして、全国指名手配されるみたいな夢。「万引きでどうして指名手配なんだ。そのエピソードはどう伏線として回収されるんだ」とか言わないでよ、夢なんだから。

そういう夢を見て起きたときは、背中にじわっと汗をかいている。暑いのに、まとわりつくような悪寒がする。
『元職員』を読んでいるときの気分も、まさにそんな感じ。
じわりじわりと追いつめられてゆく気分。
どんどん逃げ場がなくなっていって、常におびえながら暮らさないといけない。ときどきふっともうどうにでもなれという気になるし、でもやっぱり逃げなくちゃとも思う。
ガス漏れしている部屋にいるように、気がつけば恐怖と不安と焦燥が充満している。

曽根圭介『藁にもすがる獣たち』(感想文はこちら)も嫌な小説だったけど、あれはまだ少しだけ救いがあったし、謎解きの快感があった。
でも『元職員』は、ただただ嫌な小説。
嫌な気分になるだけ。
タイのむわっとするような暑さの雰囲気も、嫌な気持ちになるための、ちょうどいい舞台装置の役割を果たしている。
なんでこんなもの読むんだ、という気になるけど、たまにこういう気分を味わいたくなるんだよね。
なんでかね。それだけ今幸せだってことを確認できるからかね。



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2017年3月3日金曜日

バーコードバトラーの時代


バーコードバトラーの話なんだけどね。



なに?
知らない?
バーコードバトラーを?

はあ、最近の若いもんはバーコードバトラーも知らんのか。
わかんなかったら図書館行って調べてみろって。まちがいなく文献見つからねえから。

バーコードバトラーってのは。
バーコードで戦うゲームだよ。


は?
バーコードとバーコードをぶつけてどうするんだよ。
いやいや、バーコードで戦うっていったけど。

ちがうちがう。
モンスターで戦うの。


は?
ポケモンじゃないってば。
ポケモンよりバーコードバトラーのほうが前なの!

あれ?
前だったっけ? バーコードバトラーとポケモン、どっちが先だ?
まあいいや、どっちが先でも。

バーコードでモンスターを召喚する、それがバーコードバトラー。
バーコードをね、スキャンするの。
そしたらモンスターが出てくるわけ。もちろん本当にじゃないよ。


え?
コンビニのレジにバーコードを持っていって召喚してもらう?
ちがうちがう、そんなローソンのLoppiみたいなシステムじゃないの。
レジに行かなくてもいいの。
だいたいその頃まだコンビニとかなかったから!

あれ?
その頃もうコンビニあったっけ。
まあいいやどっちでも。
少なくとも鳥取にはなかったし。


だろ?
おもしろそうだろ?
そうなんだよ、画期的なアイデアなんだよ。
小学生男子はみんなほしかったんだから。


「おもしろそうなアプリですね」じゃねえって!
アプリじゃないんだよ。
その頃まだアプリどころか携帯電話すらなかったから!

あれ?
携帯電話はあったっけ。PHS時代だったっけ。
まあいいやどっちでも!




2017年3月2日木曜日

【読書感想エッセイ】 ケリー・マクゴニガル 『スタンフォードの自分を変える教室』

内容(「BOOK」データベースより)
60万部のベストセラーがついに文庫化!これまで抽象的な概念として見られていた「意志」の力についての考え方を根本的に変え、実際の「行動」に大きな影響を与えてくれる。目標を持つすべての人に読んでもらいたい一冊。

いかにも自己啓発書って感じのタイトルだけど(このタイトル嫌い!)、
自分の狭い経験談とどこかで聞きかじっただけの表面的な話を寄せ集めたビジネス系自己啓発本とはちがい(自己啓発本が嫌いなのよ)、
心理学者が実験から得た知見を、生活に活かすためにおこなった講義をまとめた本。


ぼくは毎日誘惑に屈している。
部屋を掃除しないといけないと思いながら寝そべって本を読み、
明日こそは早起きしようと思いながら夜ふかしして、
ゲームはもうやめようと思いながらアプリを起動する。
計画通りに行動できることはほとんどない。
先月「運動不足だから毎週プールに通おう」と決意したけど、結局プールに行ったのは1回だけ。

たぶんほとんどの人は、誘惑に屈しながら生きているんだろうね(そうであってほしい)。
これを読んでいる人たちも、禁煙に失敗し、ダイエットに失敗し、ジョギングは長続きせず、どうしても痴漢をやめられないよね。


「明日からは心を入れ替えよう」と思うのに、明日もまた失敗する。それは本能がじゃまをするから。
だったら脳のメカニズムを知って、本能に屈服するのではなく本能を利用して望ましい結果を手に入れようよ、というのが本書の論旨。

 また、科学は重要なことに気づかせてくれます。それは、ストレスは意志力の敵だということです。しかし私たちは何かをやりとげるには、多少のストレスがあっても仕方がないと思いがちで、ストレスをさらに増やすようなまねをします。やるべきことにぎりぎりまで着手しなかったり、自分の怠け癖や自制心の弱さを責めることで自分を奮い立たせようとしたり。
 あるいは、自分ではなく他人のやる気を引き出すためにストレスを利用することもあります。職場で猛烈な仕事ぶりを見せつけたり、家でカミナリを落としたり。
 そういうことは短期的には効果があるように思えるかもしれませんが、長い目で見た場合には、ストレスほどあっというまに意志力を弱らせるものはありません。ストレスに対する生理機能と自己コントロールの生理機能は、一緒には成立しないのです。
(中略)
 ストレス状態になると、人は目先の短期的な目標と結果しか目に入らなくなってしまいますが、自制心が発揮されれば、大局的に物事を考えることができます。ですから、ストレスとうまく付き合う方法を学ぶことは、意志力を向上させるために最も重要なことのひとつなのです。

ストレスがかかると脳の領域からエネルギーを奪い取り、体に向けられるそうだ。
で、意志が弱くなるんだとか。
納得。
酒好きの人ならお酒に走るだろうし、ぼくは甘党なので甘いものを食べたくなる。

「強いストレス下では目先の結果しか考えられなくなる」という習性は、人類が原始生活を送っていたころにはたいへん役に立った。
猛獣に出くわしたら(過度のストレスがかかったら)、何も考えずに全力で逃げたほうがいい。

でも現代社会において、軍人やスポーツ選手でもいないかぎりは、「頭を使わずに全エネルギーを身体に向けて短期的な結果を求める」ことが良い結果を生む状況はほとんどない(スポーツだって長期的に考えれば頭を使ったほうがいいし)。

頭脳労働をする上で「怒る」「怒鳴る」は逆効果にしかならない。
怒られる → ストレスがかかってパフォーマンスが低下する → 成績が悪化するからさらに怒られる → さらにストレスがかかる……という悪循環を生むだけ。
ビジネスの場でも、怒鳴り散らしている上司の部下がすばらしいパフォーマンスを発揮した、なんて話は聞かないよね。
「おれが怒鳴ったおかげであいつは成長した」って思ってる上司はいっぱいいるだろうけどね。



失敗したときに自分を責める人のほうが、同じ失敗をくりかえす傾向が高いんだとか。

一見、「全部私のせいだ。なんであんな失敗をしてしまったんだろう」と考える人のほうが、責任感が強そうだよね。
でもじっさいは逆で、自分を許す人のほうがプロジェクトをやりとげる「責任を果たす人」なんだって。

たしかに。
「まじめな人」って、学校では褒められる存在だけど、社会に出るとえてして「まじめなのにダメな人」になっちゃうよね。
だいたいどの部署にもひとりはいるよね、「まじめなのにダメな人」。
まじめにやっているのになぜか成果が出ない。周りも「あいつはまじめにがんばってるから」ってことで、きつく注意したり軌道修正したりせずにほったらかしにするから、いつまでたっても成長しない。おまけに自分を責める傾向が強いから何度も同じ失敗をくりかえす……。
カメなのにウサギと同じ土俵で戦おうとするタイプ
適当にやること、あまり自分を責めず、適度に外部要因のせいにしてストレスフリーに生きることが、いい結果を生むんだね。



誘惑に屈する原因のひとつとして、”モラル・ライセンシング” という現象が紹介されている。
”モラル・ライセンシング” とは、何かよいことをすると、いい気分になり、悪いことをしたってかまわないと思ってしまうという現象。
「ランチをサラダだけで済ますことができたから、その後に甘いお菓子を食べてしまう」みたいなこと。
いってみれば、免罪符を手に入れた状態だね。

 人はこのモラル・ライセンシングのせいで、悪いことをしてしまうだけではありません。よいことをするように求められたとき、責任逃れをするようになります。たとえば、寄付金の依頼を受けたとき、自分が以前に気前よく寄付したことを思い出した人たちは、そのような過去のよい行ないを思い出さなかった人たちに比べ、寄付した金額が6割も低いという結果が出ています。
 このモラル・ライセンシング効果は、世間一般にモラルが高いと信じられている人たち(牧師、家庭の大切さを説く政治家、腐敗を厳しく追及する司法長官など)がひどい不品行を行ないながらも自分に対してそれを正当化する理由を説明できるかもしれません。

たしかに、道いっぱいに広がって、通行のじゃまになりながら寄付や政治的支援を呼びかけている人っているよね。
いいことをしていると自分で思っている人ほど、周囲に迷惑をかけることに無頓着なんだよね。

テレビ演出家の藤井健太郎さんが、著書『悪意とこだわりの演出術』でこんなことを書いていた。
 逆に、何かを悪く言ったりしているとき、意図的に事実をねじ曲げていることはまずあり得ません。悪く言われた対象者からは、事実だったとしてもクレームを受けることがあるくらいなのに、そこに明らかな嘘があったら告発されるのは当然です。
 そんな、落ちるのがわかっている危ない橋をわざわざ渡るわけがありません。そんな番組があったらどうかしてると思います。どうかしてる説です。
たしかに「やらせ」が問題になるのは、たいていの場合バラエティ番組ではなく報道番組だよね。
「正しいことを伝えている」という意識が、「だからこれぐらいのルール違反は許される」になってしまうんだろうね。
警察が組織ぐるみで身内の犯罪を隠したり、逆にヤクザの偉いさんが公共の場では紳士的だったりするのも、”モラル・ライセンシング” なのかも。
人間、ずっと善人でいることはできないし、逆にずっと悪人でいつづけることも不可能なんだろうね。みんな、ほどほどにバランスを取りながら生きている。


さらに ”モラル・ライセンシング” は、「1食抜いたからお菓子食べちゃおう」みたいな直接関係のあることだけじゃなく、ぜんぜん関係ないことにもはたらいてしまうらしい。

 環境にやさしいクッキーだと思えば、栄養面の問題なんておかまいなし。それで、環境保護の意識の高い人ほどオーガニック・クッキーのカロリーを軽く見て、毎日のように食べてしまったわけです。ちょうどダイエットをしている人たちが健康ハロー効果にだまされて、ハンバーガーにサラダをつければ安心と思っていたように。
 このように、何かをいいと思ってそれにこだわってばかりいると、正しい判断ができなくなり、「いい」ことだと信じて自分を甘やかすせいで、長期的な目標を見失いかねません。

「環境にやさしい」という"いいこと" をしたから、「食事制限を破る」という "悪いこと" をしてもいいと考えてしまう。
論理的にはまったく筋の通らない話なんだけど、でもぼくたちの脳みそはぜんぜん論理的じゃない。


”モラル・ライセンシング” のはたらきを知っていると、欲望を抑えるのにも役立つだろうし、逆に誰かの欲望を刺激することでマーケティングにも使えるよね。
「この商品の売り上げの1%が森を守るために寄付されます」みたいなメッセージも、”モラル・ライセンシング” をはたらかせるのに効果的だ。「森を守るといういいことをしたから、いっぱい食べてもいい/お金を使いすぎてもいい」と思わせる。

ハイブリッド車のプリウスが売れたのも、「環境にいいから車を買ってもいい」と思わせることに成功したからかもしれない。
そういや、おもいっきりエンジンをふかせながらスピード上げて他の車の間を縫って走る迷惑なプリウスを見たことあるけど、あのドライバーも ”モラル・ライセンシング” の考えに支配されれたんじゃないかな。「環境にいい車に乗ってるからエンジンふかせてもいいや」って。



この本で紹介されている、誘惑に負けないようにするテクニック。

 行動経済学者のハワード・ラクリンは、行動を変えることを明日に延ばすのを防ぐためのおもしろい仕掛けを提唱しています。ある行動を変えたい場合、その行動じたいを変えるのではなく、日によってばらつきが出ないように注意するのです。
 ラクリンによれば、タバコを吸うなら「毎日同じ本数」を吸うよう喫煙者に指示すると、タバコの量を減らせとは言われていないにもかかわらず、なぜか喫煙量が減っていくといいます。

「明日からやろう」という言い訳をできなくするわけだね。

ぼくは人生でタバコを吸ったことは一度もないし、競馬もパチンコもやったことがない。
それは「一度手を出して抜けられなくなるんじゃないか」と思っているから。ハマってしまうのが怖いから。
自分の意志の弱さを知っているから、自分のことをまったく信用していないから、誘惑には近づかない。


さっきの ”モラル・ライセンシング” の話と同じで、これは誘惑を退ける方法でもあるし、逆手にとれば誰かを誘惑するのにも使えるね(ぼくはマーケティングの仕事をしているので、ついついそっちで考えてしまう)。

つまり「1回だけ」「今日だけ」といえば誘惑に転びやすくなるってことだもんね。
「本日限り半額! 節約は明日からしましょう」
というメッセージを届けることができれば、財布の紐をゆるませられるはず。



あと、人を興奮させるドーパミンは「快楽」ではなく「期待」「欲望」をもたらすって話もおもしろかった。
ドーパミンが出るのは「快楽を感じたとき」じゃなくて「快楽を感じる予感がしたとき」なんだとか。
パチンコでドーパミンが出るのは「大当たりしそうなとき」であって、じっさいに換金して「報酬を手に入れたとき」ではないってこと。

たしかに、何をするにしても「期待しているとき」がいちばん楽しいよなあ。

ぼくは本が好きなんですけど、本を読んでいるときよりも「本の巻末にある新刊情報」を読んでいるときや、Amazonのレビューを見て「おっ、これはおもしろそうだ」って思うときがいちばん楽しい。

昔のホームページにはたいがい『リンク集』があったけど、あれをクリックする瞬間はわくわくしたもんなあ。
今はリンク集はほとんど見なくなったけど、『関連動画』『こんな記事も読まれています』ってすごくおもしろそうに見えるもんね。

このときもドーパミンが出ているんだろうねえ。



『自分を変える教室』というタイトルだけど、どっちかっていうと「なぜ自分は変われないのか」って感じの内容。


こういう本はすごくおもしろい。
10年くらい前に、池谷裕二さんの『進化しすぎた脳』という本を読んで、その日から世界の見え方が変わった。

そうか、ぼくはこんなふうに考えていたのか。ぼくはこうやって脳に動かされていたのか。

思考は自由自在にコントロールできると思いこんでいたけど、
物理法則があるからどんなにがんばっても空を飛べないのと同じで、
ぼくの考えもいろんな化学的制約を受けていて、ごくごく狭い範囲でしか動かせないのだと知った。

その頃ぼくは無職で、精神的にもちょっと落ち込んでいたんだけど脳のしくみを知ってからはずいぶん生きやすくなった。

こんな考えを持つのも脳の構造上しょうがないんだ。
こう考えてしまうのはあたりまえのことだったんだ。


おい「自分探し」をしてるやつ、聞いてるか!

「自分」はインドにはないぞ! 本の中にあるぞ!



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2017年3月1日水曜日

R-1ぐらんぷり2017の感想

R-1ぐらんぷり2017の感想書きます。


【1回戦Aブロック】

・レイザーラモンRG 『トランプ大統領』

この人のすごさって、「プロとは思えない潔さ」ですよね。
トランプ就任直後にトランプやったり、五郎丸が流行ってるときに五郎丸やったり。
しかも似てないし、たいしたひねりもない。
プロの芸人がぜったいにやらないことでしょ。素人が(それもおもんないやつが)忘年会でやっちゃうレベルのキャラ。
それをプロがやるってのがすごいよね。
この人しかできない。ここまでいくと逆にカッコイイ。
もうおもしろいとかおもしろくないとかどうでもいい。ていうかおもしろくなかった
でもそれもいいじゃない、って思わされる人間的魅力があるね。相方がイヴァンカ・トランプの恰好で応援に来てたシーンもしみじみとした良さがあったなあ。こちらもやっぱりおもしろくなかったけど。

・横澤夏子 『ママチャリ』

達者だね。達者さがちょっと鼻につく感じだね。
一人芸って、ネタの力と表現力のかけ算だと思うんだけど、ネタが弱いよねえ。
というかこの道って、古くは山田邦子から、青木さやかやら柳原可奈子やらがさんざんやりつくしてしまった道だからねえ。

・三浦マイルド 『両方から聞こえてきそうな言葉』

ネタそのものは良かったんだけど、キャラクターとあってなさすぎてうまく入ってこなかったな。せっかく強いキャラクターがあるのに誰がやっても成立しちゃうネタだったな。
後半の保育園のくだりは広島出身という点をうまく活かしてたけど、そこにいくまでは「悪くはないけど……」っていう感じでした。

・サンシャイン池崎 『となりのトトロ』

たぶんああいう勢いで押しきるネタって、現場にいたら笑っちゃうと思うんだよね。
逆にいうとテレビで観ている人との温度差がいちばんあるのもこういうネタ。
きっと「まったく笑えなかった」という感想があふれかえっていたことでしょう。ぼくもそのひとり。


ぼくは「あえて言うなら三浦マイルドだけど誰でもいいや」って思ってましたが、サンシャイン池崎が最終決戦進出。


【1回戦Bブロック】

・ゆりやんレトリィバァ 『透明感のある女』

わかりやすいフリの後に、強い一言を並べていくネタ。
設定がフリーダムすぎて、客も戸惑っていたように感じた。
たとえば「なんで〇〇は××なん?」っていう言い回しで統一するとか、ヤンキーというテーマでそろえるとか、なにかしらルールがあったほうが見やすかったように思う。
ところでネタとまったく関係ないけど、ゆりやんレトリィバァってすごい吉本新喜劇にいる雰囲気漂わせてるよね。はじめて見たとき「ぜったい新喜劇の役者や」って思った。新喜劇側はぜったいほしいやろ。

・石出奈々子 『ジブリっぽい女の子が大阪に行く』

いきなりネタと関係ないこと書くけど、この人、すごいタイプ。
整っているようでちょっとだけくずれてる顔とか、小柄なとことか肌がきれいなとことか。
「かわいいなあ」と思って観てたのであんまりネタ覚えてないや。
ええっと、大阪に行く話ね。
ほんとジブリの世界の表現すごいね。特にあの力こぶのとことか。でも肝心のネタはおもしろくなかったなあ。大阪ネタが手垢まみれすぎて。
あの世界観で、大阪人全員から憎まれるぐらいどぎつい攻撃したらおもしろいんだろうなあ。

・ルシファー吉岡 『大化の改新』

よくできてるんだけど、設定自体はそこまでぶっとんでるわけじゃないから、あとはどれだけ切れ味の鋭い言葉を並べるかなんだけど、期待を超えてくれなかったなあ。
自身が2016年にやった「キャンタマクラッカー」のネタのほうが、設定、言葉のインパクト、くだらなさ、どれをとっても上だった。
自分に負けちゃだめだね。

・紺野ぶるま 『占い師』

15年くらい前だったらすごくウケてたと思う。
今でもおもしろくないわけじゃないんだけどね。でもすべてが古い。
いろんなネタをパクってんのか? って思っちゃうぐらい、どのボケも既視感があったなあ。
それでもまだ表現力があれば笑えるんでしょうけど。
この人がネタ書いて横澤夏子が演じたらうまくいくんじゃないかな。


Bブロックも消去法で石出奈々子かなあと思っていた。で、石出奈々子が最終決戦進出。

アイデンティティ田島の敗者復活コメントおもしろかったなあ。「ブルマも行ったし」
でも結果発表前に急にアナウンサーがコメント振った時点で「落ちたんだな」ってわかっちゃったから、あれはよくないね。


【1回戦Cブロック】

・ブルゾンちえみ 『キャリアウーマン』

見ててわかるぐらい緊張してたね。本人も「ネタ飛ばした」と言ってたし。
あの顔で余裕たっぷりのいい女を演じるのがおもしろいネタだから、緊張しちゃったら成立しない。
べつの番組で観たことあるけど、いちばん笑ったのは両隣の男のセリフだった。

・マツモトクラブ 『雪の夜の駅のホーム』

笑いの量を求められる場では勝てないだろうねえ。この人のはコントじゃなくてコメディだからねえ。
戦いの場を変えたほうがいいんじゃないかと思う。
ところで「掛川は新幹線止まらない」は、RGのネタを受けてのアドリブだったのかな。アドリブを入れにくい構造のネタなのに、がんばったなあ。

・アキラ100% 『全裸芸』

いやあ、おもしろい。これは惹きつけられちゃうでしょ。
以前に観たことあって、でも去年のR-1ぐらんぷりで決勝に行けなかった時点で「今後はもう無理だろうな」と思っていた。
だって見た目のインパクトが命だし、『丸腰刑事』の完成度は高かったから、「もうこれ以上のネタを作って上がってくることはないな」と思っていた。
で、今年になって決勝進出。「なんでいまさら」と思っていたら、ちゃんとネタのレベルを上げているのでびっくりしてしまった。
生放送だった、というのも有利にはたらきましたね。
板尾審査員がコメントしていたとおり、スリリングなネタで見入ってしまいました。

・おいでやす小田 『言葉を額面通りに受け取る彼女』

これはいいネタだね。いちばん笑ったのはアキラ100%だったけど、ネタの完成度はこれがダントツで1番だった。
「比喩表現を言葉通りに受け取ってしまう」ってボケ自体は古典落語にもあるぐらいだから目新しいものじゃないんだけど、見せ方がうまかったね。
彼女だけでなくウェイターも使ったり、言葉だけじゃなく手の動きもつけたり、妄想の会話を延々くりひろげるくだりがあったり、飽きさせない趣向が十分に凝らされていた。


アキラ100%がおいでやす小田を僅差で抑え、最終決戦進出。
ぼくも「笑ったのはアキラ100%、でも好みはおいでやす小田」と思っていたから、まあ納得。
あとは、アキラ100%にはかわいげがあるけど、おいでやす小田にはかわいげがないってのも、意外と審査に響いたのかも。本人が悪いわけじゃないけどね。


【最終決戦】

・サンシャイン池崎 『でかい剣を持ってるやつあるある』

あれ?
1本目のネタよりはおもしろいと思ったのに、こっちのがほうがウケてない。
ていうか客が疲れてない?
後半急カーブを切って着地する構成とか、叫びすぎて声出なくなってるとことか、おもしろかったのにな。好きじゃないけど。
「らしくない」ネタだったからすんなり受け入れられなかったのかな。
1本目と違う笑いのとりかたをしにきていて、じつはけっこう計算高い人なのかもね、この人。

・石出奈々子 『ジブリの世界のテレビショッピング』

サンシャイン池崎とは逆に、1本目と同じタイプのネタを持ってきて撃沈。
いやあ、びっくりするぐらいスベってたね。
ほんとおもしろくなかったなあ。かわいいだけだったなあ。かわいかったなあ。


・アキラ100% 『全裸芸』

サンシャイン池崎が空回り、石出奈々子がだだスベりで、やる前からほぼ結果が決まってしまったアキラ100%。
ここでのアキラ100%は安心感がありますね(ネタの内容は不安感しかないけど)。だってこの芸がスベることないでしょ。眉をひそめられることはあっても。
で、最後の最後までいろんな角度から全裸芸を見せてくれて楽しませてくれました。
ネタを見るだけで、まじめな人なんだなあってわかりますね。


というわけで、アキラ100%が残る2人に圧倒的な差をつけて、文句なしの優勝!


しかし、「R-1ぐらんんぷり優勝者は売れない」というジンクスがありますけど、このジンクスは少なくともあと1年は続きますね、これ……。