【読書感想文】 佐々木 一寿 『経済学的にありえない。』

佐々木 一寿 『経済学的にありえない。』

内容(「BOOK」データベースより)
ハズレ映画を、最後まで観てしまう―サンクコスト、市販品のカレーをレシピ通りにしか作らない―保有効果、仕事でミスした後、強気で挽回をはかる―ブレークイーブン効果、「憎めない人」の評価は14倍以上、甘くなる。古典からピケティまで、ビジネスと人生に役立つ経済学。身近な話題を取っかかりに、いまの経済学のエッセンスをやさしく紹介!

なんか「売れる本」っぽいタイトルですね。

タイトルはいいんですけどね。内容は、さほど難しいことを書いているわけではないのに、話があっちこっちにいってわかりにくいです。
紹介文に「いまの経済学のエッセンスをやさしく紹介」と書かれていますが、ほんとにエッセンスの紹介だけにとどまってるなあという印象でした。


でもいろんな経済学の本のエッセンスをまとめただけあって、パーツだけで見るとけっこうおもしろいことも書いてあるんですけどね。


たとえば、プロスペクト理論とギャンブルについて書かれた章。
プロスペクト理論ってのは、

一般的に、人は利得よりも損失のほうを大きく見積もる。
そして、利得も損失も、0に近いときは強く感じるが、絶対値が大きくなるにつれて感じ方は漸減してゆく

という理論だそうです。

要するに、1万円得するよりも1万円損したときのほうが強く印象に残り、
0からマイナス1万円になったときに比べると、マイナス1万円からマイナス2万円になったときにはショックを感じないということです。

1万円負けたギャンブラーにしてみると、再挑戦して「さらに1万円負けるかも」という恐怖心より、「0に戻れるかもしれない」という期待のほうがずっと大きくなってしまうということですね。
そしてトータル2万円負けたら、さらに1万円負けることのダメージはさらに薄まります。
こうして負けのこんだギャンブラーは、どんどん深入りしてしまうわけです。

こういう心情の変化を理解していると、ギャンブルで深入りして大損することは減るかもしれないですね。

まあぼくはギャンブルをやらないので関係ありませんけど、と思っていたら……。

 これは、負けの込んだギャンブラーだけでなく、負けの込んだ投資家にも言えるかもしれません。プロであればいわゆる「損切り」も上手かもしれませんが、負けが込んで、限界値を超えると、いつ発症しないとも限りません。
 また、普通のビジネスパーソンであっても、以前の仕事のミスを気に病んで、その反動で大きく挽回できそうなことを強気でプランニングしたくなる瞬間もあるかもしれません。
 つまり、負けが込んでくると、人間はリスクテイクを盛んにする、ハイリスクに果敢に挑む、そしてその行為に抵抗が少なくなっていきやすく、それは人間のココロがもつ気質効果によるものだということになります。

たしかに物事がうまくいってないときって、坂を転げていくようにどんどん悪くなっていくよな……。
10の失敗をしたら、1ずつコツコツと返していけばいいのに、一気に10を返済しようとしてしまうんですよね。
そして成功率の低い方法に賭けて、また失敗する……。よくある話ですね。

闇金の借金みたいにどんどん利息がついていくんだったら一発逆転に賭けるしかないんでしょうけど、そうじゃないならコツコツ返していけばいい。
傍から見ているとそう思えるんですけどね。

そういや男女関係においても、別れたいと言われた側が別れたくない一心で醜態をさらす――なんて話をよく聞きますよね。
幸か不幸か、恋愛経験の乏しいぼくには経験がありませんけど。
あれも、マイナスをコツコツ返すよりも、ストーカー行為のような(客観的に見れば)成功確率の低そうな一発逆転方式に賭けてしまった結果なんでしょうね。



また、悪い状況から抜け出すのが難しい要因のひとつとして、イケア効果というものも紹介されています。
イケア効果ってのは家具ブランドのIKEAから来ている言葉だそうで、「手間をかけたものほど大事に感じる」ってのが由来だそうです。IKEAの家具は自分で組み立てますからね。なるほど。


市販のカレールーに隠し味を入れるとおいしくなる、ってのもたいていの場合はイケア効果によるものだそうです。
自分がひと工夫したから、よりおいしく感じるというわけですね。
たしかに隠し味をくわえた本人からすると「カレーにコーヒーを入れるとぐっとコクが出るのよ」と思いますが、知らずに食べた他人にはまったくわかりませんもんね。


このイケア効果、家具を大切にしたりカレーにひと手間くわえたりするだけならいいんですが、物事に投入した時間や労力が大きくなると、今度はその投入した時間に自分自身が拘束されてしまうようになり、悪い状況から抜け出せなくなってしまいます。

人間、自分が苦労したものはかんたんに捨てられない。

仕事においても、客観的にみると「そのプロジェクト、利益も生んでないしこれから先劇的に良くなる展望もないから早く撤退したらいいのに」と思うことがよくあります。
でもプロジェクトのまっただ中にいる当事者は、それがなかなかわからないんですよね。
「もうちょっとがんばれば良くなるはず」と思って、大きな労力をかけてしまう。
そして労力をかけたからこそ、ますます愛着を感じて撤退できなくなってしまう……。

よくある話ですよね。

仕事でもゲームでもコレクションでも恋愛でも、後で冷静に考えたら「なんであんなことに心血を注いでたんだろう」と思うことでも、いざ渦中にいるとなかなか撤退できない。

逆に、ソーシャルゲームの開発者なんかはこうした効果をよく知っていて、とにかくある程度の時間をゲームに使ってもらおうとするんでしょうね。
1分しかやっていない無料ゲームを辞めることはかんたんでも、多くの時間とお金を投じたゲームアプリをアンインストールするのはかんたんなことではありませんもんね。

イケア効果を知っていると、消費者としても販売者としてもいろいろと有効利用できそうですね。



経済学の本ですけど、心理学の本として読んだほうがおもしろいかもしれません。



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