【読書感想文】高岡 望 『アメリカの大問題―百年に一度の転換点に立つ大国』


『アメリカの大問題―百年に一度の転換点に立つ大国』

高岡 望 

内容(「BOOK」データベースより)
アメリカはいま、百年に一度の転換期に立ち、三つの大問題に直面している。第一は格差と移民の問題。EUは100万人の難民で大騒ぎになったが、アメリカは過去25年に亘り年平均100万人の移民を受け入れており、16年大統領選挙の争点となった。第二は力の行使の問題。全家庭の43%が銃をもつ米国は力の行使を是とし、長年「世界の警察官」を自任してきたが、一転して孤立主義に立つ可能性が生じている。第三はエネルギーの問題。シェール革命後どのようなエネルギー・モデルを構築するかによって、この超大国の命運は決まる。歴史的転換の本質を外交官の目で読み解く。

刊行は2016年6月。まだ大統領選がおこなわれていた最中で、ほとんどの日本人はトランプ氏が大統領になるとは思っていなかった時期。

この本ではヒラリーとトランプのどちらが勝つとも予想されていないけど、客観的に並べているデータを見ていると「トランプが(というより共和党が)大統領選に勝利したのもある意味必然といえるのかもしれないな」と思える。トランプ氏が勝利した今だから思うのかもしれないけど。

国民健康保険がないので医療費が高い、銃による殺人が減らないが銃規制はいっこうに進まないことなど、アメリカの問題点が描かれている。このへんに関しては堤未果さんの『貧困大国アメリカ』シリーズのほうがわかりやすいね。


アメリカって、誰もが認める世界一の大国なので一見すると何の問題を抱えていないかのような印象を受けてしまうけど、格差とか銃とか移民の問題を見ているとどの国よりも深刻な病を抱えているような気がする。

 何と大量の移民が継続的に受け入れられ、アメリカ社会に溶け込んでいることか。2010年には、全米の人口3億900万人のうち、外国生まれは 12.9%を占め4000万人、そのうちアメリカ国籍取得者は1750万人で、過半数は外国籍のままの2250万人であった。外国生まれの過半数の 53.1%は中南米生まれであり、国籍別ではメキシコが最多の 29.3%であった。
 さらに、アメリカに滞在している親から生まれた子供は、親が誰であろうが生まれた時点でれっきとしたアメリカ人となる。アメリカ生まれの女性1000人が1年間に 51.5人の子供を生むところを、例えばメキシコ生まれでアメリカに住んでいる女性は 85.2人と、1.7倍近いハイペースだ。

この移民の数、ものすごいね。
人口の13%が移民、さらに移民2世はアメリカ人になることを考えると、「移民+その子ども」で考えると人口の3割近くが移民なんだね(というか99%が移民とその子孫)。

EUに100万人の移民が来て激しい排斥運動が起こってたけど、アメリカには一国で4000万人の移民がいる。

それだけ移民が多いことを考えると、トランプ氏が「これ以上移民が増えないようにメキシコとの間に壁をつくれ!」と言っていることも、べつに過激な発言という気もしない。
「日本の人口の3割が中国人になってもいいですか?」と訊かれたら、ほとんどの日本人がNOと言うんじゃないかな。

今回の大統領選でも、ヒスパニックの票が明暗を分けたともいわれている。
ヒスパニックのほとんどはカトリック教徒なので、保守的な共和党に投票する傾向がある。

 以上述べた三段階を経て、「怒れる南部」において、「小さな政府」、白人主導、宗教右派という三つの要素が結合し、共和党内の強力な政治連合が成立した。 20 世紀後半に南部で繰り広げられた「政治的大事件」の完結である。この経済的利害追求を越え出現した政治的連合は、経済政策に明確な問題意識を有していなかった草の根の信心深い多くの有権者を、中絶、同性婚反対といった宗教上のテーマに引き付けることにより、共和党への投票を増やすことに成功した。

日本に入ってくるアメリカの情報は、ニューヨークを中心とした北部の情報が多いけど、テキサス在住の著者は南部こそが大統領選の鍵を握っているのだと主張している。
そして、実際に南部を抑えたトランプ陣営が勝利した。

日本では驚きをもって受け入れられたトランプ勝利だけど、アメリカの現状を考えると必然だったのかもしれない。

トランプ氏は「アメリカが他の国のいさかいを収めるために出ていくのはもうやめだ」と主張している。
ぼくも「ベトナムでもイラクでもアフガンでも失敗しているし、アメリカが世界の警察官をやらなくてもいいのではないか」と思ってた。
でも話はそう単純なことでもないみたい。

 だが振り返ってみれば、このアメリカの「向こう見ずなおせっかい」が時には歓迎されなかった 20世紀後半は、まだ平和な時代だったということになるのかもしれない。なぜなら 21世紀に入ってからは、今後の国際情勢の展開次第では、アメリカの介入を恋いこがれる声が、世界の各地で高まるかもしれないからだ。かつて 20世紀前半に戦われた二度の世界大戦で、侵略された国がアメリカの参戦を心待ちにしたように。

たしかに、「アメリカは他国のことに介入しないでくれ」ってのは平和な時代だからこそ言えることだよねえ。
第二次世界大戦で、アメリカが「おせっかい」心を出して参戦を決断しなければ、現在のヨーロッパの国境はずいぶん違ったものになっていただろう。

平穏に暮らしていたら警察官に対して「ちょっとスピード違反したぐらいで取り締まりやがって」「いちいち職務質問しやがって」と悪い感情を持つことも多いけど、危険な目に遭ったら「助けておまわりさん!」となるのと同じように。
「警察官なんていらない!」と言えるのは幸せなことなんだろうね。


軍事的にも経済的にも圧倒的な強国として世界ナンバーワンの座に君臨してきたアメリカ。
中国が台頭してきてからは、アメリカが今後も覇権を握りつづけることはできないんじゃないかといわれている。

それでも著者は、今後もアメリカは世界に最も影響を与える国として君臨しつづけるだろうと予想している。
その根拠が、堆積岩からエネルギー源である石油や天然ガスを取り出せるようになった、いわゆる「シェール革命」だ。

 2005年頃からシェールガスの生産は全米に広がり、注目度は一気に高まった。生産高はうなぎ登りで、2010年には、全米で生産された天然ガスのうち、シェール層から採掘されたものの割合は23%に急増した。この割合は2035年には49%になると予想されており、何とアメリカの天然ガスの半分がシェール由来、つまりシェール革命後30年余りで天然ガスの生産量を2倍にする効果が生まれるのである。
 こうなるとシェール革命の影響は、当然アメリカ国外に及ぶ。早くも2009年には、アメリカの天然ガス生産量はロシアを抜いて、世界一になってしまった。
 さらに、シェール革命の恩恵は石油にも及んだ。石油はガスより比重が大きいため、当初はシェールからガスを採取するときに、付随的に石油が採れる程度であったが、技術の向上により、本格的にシェールオイルの採取も可能になった。 アメリカの石油生産は1970年をピークに逓減し、21世紀になると枯渇する可能性(いわゆるピーク・オイル論)が喧伝されていた。しかし、図14 のとおりシェール革命がこれを覆し、生産量は2008年を境に毎年増加に転じる。そしてついに2014年には、世界一の石油産出国、サウジアラビアと肩を並べるまでに至った。

いつのまにかアメリカってここまでの資源大国になってたんだね。サウジアラビアと同程度か……。
アメリカは世界一の天然ガス産出国になり、さらに枯渇が危ぶまれている中東の石油とはちがい、まだまだ産出量が増加しているらしい。

そしてシェールガスを取り出すためには大資本と最先端の開発技術が必要なので、アメリカ以外の国はまだまだシェールガスを取り出すことが難しく、しばらくはアメリカの独走状態が続く。

世界一の軍事力と経済を持つ国が、世界一のエネルギー源も手に入れた。
まだまだアメリカの時代は続きそうだね……。


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