『アメリカの大問題―百年に一度の転換点に立つ大国』
高岡 望
刊行は2016年6月。まだ大統領選がおこなわれていた最中で、ほとんどの日本人はトランプ氏が大統領になるとは思っていなかった時期。
この本ではヒラリーとトランプのどちらが勝つとも予想されていないけど、客観的に並べているデータを見ていると「トランプが(というより共和党が)大統領選に勝利したのもある意味必然といえるのかもしれないな」と思える。トランプ氏が勝利した今だから思うのかもしれないけど。
国民健康保険がないので医療費が高い、銃による殺人が減らないが銃規制はいっこうに進まないことなど、アメリカの問題点が描かれている。このへんに関しては堤未果さんの『貧困大国アメリカ』シリーズのほうがわかりやすいね。
アメリカって、誰もが認める世界一の大国なので一見すると何の問題を抱えていないかのような印象を受けてしまうけど、格差とか銃とか移民の問題を見ているとどの国よりも深刻な病を抱えているような気がする。
この移民の数、ものすごいね。
人口の13%が移民、さらに移民2世はアメリカ人になることを考えると、「移民+その子ども」で考えると人口の3割近くが移民なんだね(というか99%が移民とその子孫)。
EUに100万人の移民が来て激しい排斥運動が起こってたけど、アメリカには一国で4000万人の移民がいる。
それだけ移民が多いことを考えると、トランプ氏が「これ以上移民が増えないようにメキシコとの間に壁をつくれ!」と言っていることも、べつに過激な発言という気もしない。
「日本の人口の3割が中国人になってもいいですか?」と訊かれたら、ほとんどの日本人がNOと言うんじゃないかな。
今回の大統領選でも、ヒスパニックの票が明暗を分けたともいわれている。
ヒスパニックのほとんどはカトリック教徒なので、保守的な共和党に投票する傾向がある。
日本に入ってくるアメリカの情報は、ニューヨークを中心とした北部の情報が多いけど、テキサス在住の著者は南部こそが大統領選の鍵を握っているのだと主張している。
そして、実際に南部を抑えたトランプ陣営が勝利した。
日本では驚きをもって受け入れられたトランプ勝利だけど、アメリカの現状を考えると必然だったのかもしれない。
トランプ氏は「アメリカが他の国のいさかいを収めるために出ていくのはもうやめだ」と主張している。
ぼくも「ベトナムでもイラクでもアフガンでも失敗しているし、アメリカが世界の警察官をやらなくてもいいのではないか」と思ってた。
でも話はそう単純なことでもないみたい。
たしかに、「アメリカは他国のことに介入しないでくれ」ってのは平和な時代だからこそ言えることだよねえ。
第二次世界大戦で、アメリカが「おせっかい」心を出して参戦を決断しなければ、現在のヨーロッパの国境はずいぶん違ったものになっていただろう。
「警察官なんていらない!」と言えるのは幸せなことなんだろうね。
軍事的にも経済的にも圧倒的な強国として世界ナンバーワンの座に君臨してきたアメリカ。
中国が台頭してきてからは、アメリカが今後も覇権を握りつづけることはできないんじゃないかといわれている。
それでも著者は、今後もアメリカは世界に最も影響を与える国として君臨しつづけるだろうと予想している。
その根拠が、堆積岩からエネルギー源である石油や天然ガスを取り出せるようになった、いわゆる「シェール革命」だ。
いつのまにかアメリカってここまでの資源大国になってたんだね。サウジアラビアと同程度か……。
アメリカは世界一の天然ガス産出国になり、さらに枯渇が危ぶまれている中東の石油とはちがい、まだまだ産出量が増加しているらしい。
そしてシェールガスを取り出すためには大資本と最先端の開発技術が必要なので、アメリカ以外の国はまだまだシェールガスを取り出すことが難しく、しばらくはアメリカの独走状態が続く。
世界一の軍事力と経済を持つ国が、世界一のエネルギー源も手に入れた。
まだまだアメリカの時代は続きそうだね……。
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