【読書感想文】ランドール・マンロー『ホワット・イフ?:野球のボールを光速で投げたらどうなるか』

ランドール・ マンロー

 「BOOK」データベースより
人類総がかりでレーザーポインターで照らしたら月の光は変わる?お茶を必死にかき回したら沸騰させられるかな?どのくらい高い空から落とせば、その熱でステーキが焼けますか?元素周期表を現物の元素のキューブを積んで作ったら何が起こる?こうした突拍子もない思いつきも、理系思考をこらして検討すれば、そこからは驚くべき結論が導き出され、何よりその結論は笑える!元NASAの研究者が物理と数学とマンガで読者の疑問に全力を挙げて答える、人気のマンガ科学解説サイトを書籍化したベスト&ロングセラー、待望の邦訳。

 十数年前に、一部の層に大ヒットした『空想科学読本』をご存知だろうか。
「もしウルトラマンが実在したら地球はどんなことになる?」といった疑問を、物理学の知識を使って鮮やかに解明(?)した科学エッセイだ。

 そのアメリカ版ともいえるのが『ホワット・イフ?』(どうでもいいがもうちょっとマシな邦題をつけられなかったのか。中身のおもしろさを1%も言い表していないぞ)。


 『空想科学読本』をちょっとアカデミックにした本。少しばかり知的な味わい。

 たとえば、「元素周期表を実際の元素でつくったらなにが起こるか?」という章。
 硫黄(S)は、普通の状況なら問題はない。せいぜい悪臭がするぐらいだ。しかし、ここでは周期表の順に並べているわけなので、硫黄の左隣には燃えているリンが、右隣にはフッ素と塩素がある。純粋な気体のフッ素に曝されると、硫黄は(多くの物質がそうであるように)発火する。
 不活性ガスのアルゴン(Ar)は、空気より重く、そのまま広がって床を覆うだろう。だが今はアルゴンのことを気にしている場合じゃない。もっと大変な問題が起こっているからだ。
 フッ素と硫黄が高温で反応すると六フッ化硫黄などの恐ろしい名前の化合物が何種類もできる可能性がある。室内で発生すると、有毒ガスで窒息するかもしれないし、建物が焼失する恐れもある。

 このあとさらにたいへんなことが巻き起こるのだが、続きは本書にて。
 難解な計算はほとんどなく、高校レベルの物理や地学や化学の知識があれば楽しめる。

 ユーモアの利いた文章もいい。
 たとえば「世界中の人間を数週間隔離したら、風邪は根絶するんじゃないか」という章の一文。
 世界規模の隔離を実施するにあたって、別の問題も出てくる。「われわれは実際、どれくらい遠く離れられるのだろう?」という問題だ。世界は広い[要出典]。しかし、人間は大勢いる[要出典]。

 Wikipedia好きならニヤリとせずにはいられないギャグでしょう。

 核燃料プールに入っても意外と死なないとか、海の底にでっかい穴を開けたとしても海はなくならないとか、へえそうなんだと思わされる知見も得られて、ばかばかしくも脳が鍛えられる一冊。
 千葉大の入試で「タケコプターは実現可能か?」という問題が出たことがあるらしいけど、大学入試問題に使ってもいい一冊だね。



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