【読書感想文】奥田 英朗『用もないのに』

奥田 英朗『用もないのに』

内容(「BOOK」データベースより) 職業:小説家。年齢:とりあえず中年。じきに五十路の身である。〆切のある旅なんて真っ平御晩。自慢じゃないが、おやじの腰は重いのである。と、胸を張ったはどこへやら。編集者の甘言につられて、北京、NY、あっちこっちの野球場、果てはお遍路まで…。人気作家がしぶしぶ物した、脱力紀行エッセイ集。

奥田英朗さんの書く文章は軽妙でテンポよく読めるので、紀行エッセイに向いていますね。
紀行文ってどうしても説明が多くなってしまうので、堅い文章だとほんとうに読むのがつらくなってしまうので。


『野球篇』と『遠足篇』に別れていますが、圧倒的に『野球篇』のほうがおもしろい。
野球場めぐりが趣味だというだけあって、野球に対する愛情と、愛しているからこその鋭い視点が感じられます。

まずは北京オリンピックでの野球日本代表を観戦した『再び、泳いで帰れ』。
終始、星野監督に対して厳しい目が向けられています。

ぼくも、野球は好きなのですが野球日本代表は好きではありません。
たいした戦略もなく各球団からスター選手を引っ張ってきて、指導者としての実績に乏しい監督を引っ張ってきて(長嶋茂雄、原辰徳、星野仙一、小久保裕紀......。名将とか智将とか呼ばれる人間がいないじゃないか)、オールスターゲームみたいななめた采配を振るわせる、という印象しかありません。

奥田英朗も、オールド野球ファンだからこそ、星野監督の情報不足や選手への信頼不足を指摘しつづけています。
オリンピックのような国際試合だと日本代表に対して手放しで誉めちぎることしかできないような風潮がありますが、そんな中で、つまらない野球をした星野ジャパンに対して「泳いで帰れ」と言い放つ姿勢は見事。
たしかにキューバの選手あたりのほうが日本よりもはるかにかっこいい野球をするもんなあ。勝たなくてもいいからかっこいい野球をやってほしいものです。


続く『アット・ニューヨーク』ではニューヨークまで松井秀喜のゲームを観戦に。
ヤンキース・スタジアムの描写が光り、単なる野球観戦記ではなく「ヤンキース・スタジアムで本場のホットドッグ食べたいな」と思わせる紀行文に仕上がっています。
ぼくは今までに甲子園球場、京セラドーム、今はその名がなくなったグリーンスタジアム神戸、今は球場自体がなくなってしまった西宮球場に行ったことがありますが、どの球場も「野球を観るための場所」であって、ニューヨーク・スタジアムのように「家族が休日で過ごせる場所」ではありません。子どもが走りまわってたら怒られるしね(西宮球場はぎりぎり許されそうな雰囲気がありましたが)。
わざわざ遠くの東京ドームや福岡ドームに行ってみたいとは思いませんが、ファンと選手の距離が近いというメジャーリーグのスタジアムには一度は行ってみたいものです。



2005年に楽天ゴールデンイーグルスが創設されたときに地元仙台での開幕戦を取材した『松坂にも勝っちゃいました』もいいエッセイでした。
我らの町にプロ野球球団がやってきたという熱狂と、でも慣れてないからどんなスタンスで応援していいのかわからないという戸惑いの両方が文章から感じられました。

 早くしろよ。ぶつぶつと文句を垂れる。周囲からも小刻みな投手交代に「またかよ」と小声が漏れるが、昨夜同様、表立って野次を飛ばす観客はいない。きっとまだ他人行儀なところがあるのだろう。ファンもチームも歴史が始まったばかりなのだ。
 これが中日なら遠慮なく野次が飛ぶ。選手の個人攻撃だってする。それは多くのファンが、選手よりも「チーム歴」が長いからだ。わたしは星野と木俣のバッテリー時代からドラゴンズを見守っている。そういう身からすると、福留孝介や川上憲伸など、どれだけスター・プレーヤーでも小僧っ子でしかない。だから「たわけ」「なにやっとりゃーす」と平気で言える。阪神も広島も巨人もそうだ。ファンの側が圧倒的に「主人」なのである。
 楽天イーグルスも、ファンが主人になるにはあと二十年は必要なんでしょうね。気長に時を重ねてください。その意味でも三木谷社長は、本業が苦しくなってもこのチームを仙台に存続させる責任がすでにあると思う。

あれから11年。
楽天ゴールデンイーグルスが地域に根付いたことはまちがいないでしょう(10年も経たないうちに日本一になるなんて、あの頃誰が予想したでしょうか)。
ぜひ奥田英朗にはまた宮城球場に行って、球場の雰囲気がどう変わったかをレポートしていただきたいものです。



『遠足篇』では、フジロック、愛知万博、世界一のジェットコースター、四国お遍路を初体験した様子が書かれていますが、造詣の深い野球を観に行ったときに比べると文章に熱も感じられないような......。
でも、つまらないものはつまらないとはっきり言える姿勢には好感。

スポーツの国際大会とか万博になると、新聞やテレビは無条件で褒めちぎる報道に傾くからなあ。
あたりまえのことをあたりまえに言える人って必要ですよね。
建前も大事だけどさ。



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