太田 匡彦『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』
前職の同僚に、ペット業界から転職した人がいました。
どうして転職したのか尋ねると、
「いや、ペット業界は…….、だめですよ……」
と沈痛な面持ちでつぶやいて、それ以上は何も語ってくれませんでした。
さぞ嫌な思いをしたんだろうと思い、だいたいの想像はついたのでぼくも改めては聞かなかったのですが、なるほどこの本を読むとペット業界の闇がよくわかります。
どれほど多くの犬が、そしてどれほどかんたんに、殺されているか。
ときどき、犬が大量に捨てられたことが明らかになったりして、ペット業界の問題がニュースで取り上げられることがあります。
そんなニュース報道を見て思うのは、
「犬を捨てる、心ないペット販売店やブリーダーがいる」
という低レベルな話に持っていくんじゃねえよ、ってこと。
たしかに捨てるやつは心ないかもしれないけれど、犬が捨てられたり殺されたりするのを防ぐために必要なのは良心じゃない。
「みんな、尊い命を大事にしようね☆」
というおとぎ話ではなく、
「犬の命をさほど大事にしない人が必ず一定数は存在する」
という事実に基づくリアルな制度設計でしょう。
とまあ、ペット業界の構造的な問題は行政的になんとかしないといけないんですけど、ぼくは政治家でもないし善人でもないのでこうして書くだけでそれ以上はとりたてて何の行動も起こさない。
ここからは個人的な好き嫌いの話だけをします。
ぼくは、ペットショップで犬を飼う“自称犬好き”が、本屋で本の上にバッグを置いて立ち読みするやつと同じくらい大嫌いです。
「ショーケースでこの子と目があって衝動買いしちゃった~☆ あたし犬好きだから!」
と恥ずかしげもなく言える神経が理解できない(ぼくの同僚が実際に言っていた)。
仔犬ばかりをショーケースに入れて売っているペットショップについて考えてみましょう。
事前に仕入れて売っている以上、売れ残りが出るのはあたりまえです。
仔犬もいつかは成犬になって売れにくくなるのもあたりまえ。
犬が病気になっても売れなくなるのはあたりまえ。
売れ残った犬を身銭を切って世話する“心ある”オーナーばかりじゃないのもあたりまえ。
こういう「あたりまえ」をつなげて考えれば、ペットショップで犬を買うことが犬を殺すことにつながることぐらい、いい大人であれば理解できるはずです。
(誤解を招きそうなので弁明すると、もちろん良心的な業者があることぐらいぼくだって知っています。でも“心ある”業者が儲ければ“心ない”業者が参入してくるのは世の常なので、良心的な店で犬を買うことも犬殺しにつながります。ペットショップやブリーダーが悪人だという話ではなく、単なる原因と結果の話として)。
ぼくはウニを食べるのが好きです。
ウニを食べなくても生きてゆけるので、ぼくがウニを食べる行為は、己の快楽のために他の生き物の命を奪っているということです。
ペットショップで犬を買うことで、間接的に犬の処分に手を貸している人と同じです。
だからぼくは、ウニを食べるときには必ず、無惨にその尊い命を奪われたウニの無念さを思い、一筋の涙を流します。
うそです。
ウニの気持ちなど考えたこともない。
悪いと思ったこともない。ウニを食べたことを後悔したこともない(あるとすれば今後、痛風になったときだけです)。
己の快楽のために他の生物が犠牲になるのは、ある程度仕方ないと思っています。
だから、ペットショップで犬を買うなとは言いません。ペットを売るなとも言いません。
でも、ペットショップで犬を買う人には
「私がこの犬を買うことで殺される犬がいるだろう。それでも私はこの犬を買う」
ぐらいの気持ちは、やっぱり持っておいてもらいたいものです。
その他の読書感想文はこちら
0 件のコメント:
コメントを投稿