中山 七里『贖罪の奏鳴曲』
「おもしろいけど好きになれない小説」だった。
こういう感想は抱くことはあんまりないんだけどね。
いやほんと、おもしろいんだよ。
先が読めなくて気になるし、へえそうなんだって思わされる記述もあるし、意外などんでん返しもあるし。
部分部分としてはすごくよくできている。
でも、トータルで見ると好きじゃない。
好きになれない理由を一言でいうなら、「うるせえよ」に尽きる。
くどいよ。
知識のひけらかしが鼻につくんだよ。
調べたこと全部書かなきゃ気がすまないのかよおまえ司馬遼太郎かよ。
アイデア詰め込みすぎなんだよ。
音楽の美しさの表現がポエムみたいで気持ち悪いんだよ。
そういうのを全部ひっくるめて、「うるせえよ」
いやほんと。
「ちょうどいいところで抑える」ってことを知らないのかね。
構想も大きく、取材も綿密で、しっかりしたテーマもあるんだけど、とにかくやりすぎ。
刑事小説も、法廷ものも、ピカレスク小説も、少年犯罪とその更正も、なにもかも書きたかったんだろうね。
でもなんでそれを一篇の小説にしちまうんだよ......。
少年院パートなんて『ショーシャンクの空』みたいでそれだけで十分おもしろかったのに......。
なにもかも盛り込みすぎて、ちぐはぐな印象しか残らない。
うんちくばっかり語ってる人みたい。
話の内容はおもしろいのに、どうしてもその人のことは好きになれない。そんな感じ。
あと特筆すべきは、台詞のくささ。
どうよ。この、五十年前の小説を読んでいるかのような、くさい芝居がかった言い回し。
やっこさんの言い回し、こいつはめったにお目にかかれない代物だぜ!
(言い回しが感染した!)
でもまあ。
いろいろと小ばかにしたようなことを書きましたが、ほんとにおもしろい小説なんだよ。
このまま書きつづけてたら、文章もこなれてきて、いい感じに肩の力も抜けてきて、すごくいいミステリ作家になるんじゃないかな。
偉そうだけど。
と、とってつけたようなフォローをつけくわえて締めくくらせていただきます。
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