2017年9月12日火曜日

報われない愛の呪縛

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芸能に 興味のない人間なので、アイドルに入れあげる人の気持ちが理解できなかった。
いくら熱狂しておかしくなっているファンであったとしても、アイドルがファンの一人になびく可能性がないことぐらいはわかるだろう。
それなのに、なぜアイドルに莫大なお金を投下するのだろう?
同じCDを何枚も買ったり、すべてのコンサートに足を運んだりするのは度を越しているとしか言いようがない。もはやそこまでいったら楽しみよりも苦痛のほうが大きいのではないだろうか?
それだけやっても、得られるものといえばせいぜい握手ができるぐらい。
同じお金と労力を他にかけていたらもっと多くのものを手にしていたのでは?
リターンがないとわかっている投資をするのはなぜなのだろう?


と、かねがねアイドルファンに対して疑問に思っていたのだけれど、子どもを育てるようになって「いや、リターンがないからこそハマるのかもしれない」と思うようになった。

何かにハマる度合いというのは、得られたもの、得られそうなものではなく、投下したものに比例するのではないだろうか。


小学校1年生から 毎日野球をやってきた子が、高校3年生の春に「受験に集中したいから野球部やめるわ」という決断を下すことは、かなり困難だろう。仮にそこが弱小校で甲子園に出場できる可能性がほぼゼロだったとしても。
でも1週間前に野球部に入った生徒なら「練習きついし、どうせ甲子園出られないし、もうすぐ受験だから」という理由で、ずっとかんたんに辞められる。
”甲子園出場” というリターンがほぼゼロなのはどちらのケースも同じ。それでも多くの資本を投下してきた前者の子は、「せっかくここまでやってきたのだから」というもったいなさに引きずられて合理的な判断を下すことができない。
「いやいや甲子園出場だけが野球をする目的ではない。続けることでこそ得られるものもあるんだ」という人もあろうが、それは1週間前に野球部に入った子も同じだ。むしろ初心者のほうが上達のスピードが速いから得られるものは大きいだろう。


子育てを していると、子育てはコストが大きくてリターンがゼロの行動だと思う。
夜中に泣き声で起こされたり、夜中にゲロ掃除をしたり、夜中におねしょで濡れた布団を洗ったり、朝早くにおなかの上に飛び乗ってきて起こされたり、「やってらんねえよ」と言いたくなることばかりだ(ぼくは眠れないのがいちばんつらい)。
それでもなんとかやっているのは、無償だからだ。
「夜中に起こされてゲロ掃除をしたら350円もらえます」なんてシステムだったら「いや350円いらないから寝かせて」となっている。

子どもが将来自分の老後を見てくれる、なんてリターンがないわけでもないが、そんな不確実なことのために多大なる金と労力を使うぐらいなら貯金して上等な介護施設に入居するほうがずっと効率がいい。お金を払って他人に世話されるほうがずっと気楽だし。


母親はどうかしらないけど、父親であるぼくは正直、子どもが生まれた直後は愛情なんてほとんど持っていなかった。ちっさくてかわいい足だなとは思ってはいたけど、仔犬のほうがずっとかわいいと思っていた。
それでも夜泣きにつきあわされたりウンコまみれのお尻を洗ったりしているうちに、我が子が愛おしくなってきた。何かしらのリターンがあったからではない。投下した労力が大きくなってきたからだ。

「バカな子ほどかわいい」という言葉があるが、これはまさに「投下した資本が大きいほどハマる」を言い表している。



報われない愛 の呪縛は随所で観測される。

スポーツで弱いチームのファンほど熱狂的だったり(今でこそ強くなったけど、昔の阪神タイガースや浦和レッズは弱くてファンが熱狂的だった)、
ギャンブルで負けてばかりの人がなかなかやめられなかったり、
ブラック企業の社員が自殺するまで辞めなかったり、
いたるところで人々は「せっかくここまでがんばってきたんだから」に拘束されている。子育てはどうかわからないけど、往々にして不幸な結果を生んでいるように見える。

もしかすると、太平洋戦争末期における日本軍も「報われない愛」の呪縛に陥っていたのかもしれない。
多くの兵士を失い、戦艦を沈められ、戦闘機を墜とされ、失ったものは数知れず。ひきかえに得られたものは何もない。
後の時代の人間からすると「長引かせても悪くなる一方だったんだから早めにやめときゃよかったのに」と思えるが、長引かせても悪くなる一方だったからこそ抜けだせなかったのかもしれない。

個人レベルならまだしも、国家単位で「報われない愛」の呪縛に囚われると大惨事になる。
国民年金・厚生年金なんか、この呪縛に陥っているように見えてならない。


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