2017年4月14日金曜日

読書とスーパーマリオブラザーズ3の共通点

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本を読む習慣がない人から「なんか読書って敷居が高いよね」と言われた。

まあねえ、慣れてない人にはそうかもねえ、ってそのときは思ったんだけど。

いや待て。
読書って敷居が高いのか?
むしろ、趣味としては相当間口が広いんじゃないのか?

というわけで読書、その中でも小説を読むことの "敷居" について考えてみた。

ハードルを乗り越えた先がいい場所とはかぎらない


もちろん 文字を読めない人にとっては、読書は敷居が高い。とんでもなく高い。
今、たどたどしく一文字ずつ「の、ち、ん、ぽ、が、ら、な、い」と読んでいるうちの3歳児を見ていると、こいつがあと10年もすればたいがいの文章をすらすら読めるようになるとはとても信じられない(3歳児に『夫のちんぽが入らない』を読ますな)。

でも、かなと常用漢字を読める人であれば、読書って十分に楽しめるものだと思う。
古典や翻訳ものはべつにして、軽い小説やエッセイであれば特に前提知識を必要としない。


かたや 他の趣味を考えてみよう。

たとえばプロ野球観戦。
読書でいうところの「文字が読めること」に相当するのが、「野球のルールを知っている」だ。
じゃあ野球の基本的なルールを理解していればプロ野球の試合を観て100%その魅力を味わえるかというと、そんなことはないと思う。たぶん50%ぐらいじゃないだろうか。
両チームが現在何位で、昨年の成績は何位で、ピッチャーは何年目でここまで何勝を挙げていて、バッターはドラフト何位の選手で打率や本塁打数はどれぐらいで、ランナーはどこの高校を出ていてケガをしたのはいつで、センターを守っている選手の肩の強さはどれぐらいで年俸はいくらで昨年までどの球団にいたのか……。

そういうことを把握していたほうが、ぜったいにプロ野球観戦は楽しい。
毎日のようにプロ野球の結果を確認して、選手名鑑を読みこんで、ドラフトや契約更改の情報をチェックして、キャンプ情報なんかも見て、そういうことを何年も何十年も続けたうえで試合を見たほうが楽しめる。

野球を楽しむためには、これぐらいのデータを頭にたたきこんでおく必要はある


こないだ稀勢の里が優勝決定戦で勝利して大きな話題になったけど、あれもあの一番を見ただけではそのすごさがわからない。
貴乃花を最後にずっと日本人横綱が不在で、朝青龍の時代に横綱の品格が問題になって、その後白鵬を筆頭にしたモンゴル勢の時代が続いて、稀勢の里は将来を嘱望されながらなかなか大関に昇進できなくて、師匠が亡くなって、先場所やっと横綱昇進を果たして、場所の途中で怪我を負って出場が危ぶまれていて、対戦相手の照ノ富士はモンゴル出身力士で……という背景を知っているのと知らないのでは、あの一番の重みはぜんぜん違う。

つまりスポーツ観戦を十分に楽しもうと思ったら、少なくとも10年は見続けないといけないと思う。
もちろん初心者でもそれなりに楽しめるけど、10年見続けている人とは理解の度合いに大きな差が生じてしまう。
これを「敷居が高い」と言わずしてなんといおう。

他の趣味でも同じこと。
昨日カメラや自転車や将棋や古銭集めや陶芸をはじめた人が、20年間それを趣味にしている人よりも深淵を味わうことはできないだろう。


だけど 読書については、「これまで教科書以外で小説を1冊も読んだことのない人」と「過去に1万冊読んできた人」が同じ本を手に取ったとき、初心者のほうが深い部分に達することが十分にありうるのではないだろうか。

もちろん、読書にも「前提知識があったほうが楽しめる」部分は存在する(続編とかはおいといて)。
たとえば村上春樹の新作を読んだとき、『ノルウェイの森』を読んだことのある人は「これは『ノルウェイの森』のあの部分と共通するな」といった楽しみ方ができる。
でもそれで増える楽しみって、せいぜい2%ぐらいじゃない?

本というメディアは基本的にその1冊の中ですべての情報が提示されているので、毎回まっさらな状態で接することができる。そこに初心者と熟練者を隔てる大きな壁は存在しない。
だから敷居が低い、とぼくは思う。
(映画も近いかもしれないけど、映画は俳優の過去の出演作品やプライベートな情報が多少乗っかるので、完全にまっさらではないと思う)


逆に 言うと、たくさん読んだからって読書スキルが積みあげられるわけではない。
多少読むのが速くなるぐらいだし、速ければいいというものでもない。

読書は、毎回一からのスタートだ。

スポーツ観戦やギターや蒐集の趣味がオートセーブ型のロールプレイングゲームだとしたら、読書は初代ファミコン版の「スーパーマリオブラザーズ3」。どれだけがんばっても、セーブができないから次回はまた一から。

べつにどっちがいいとかじゃなくて、積みあげていくのも楽しいし、毎回新しい気持ちで取り組める趣味も楽しい。

ただ「読書は敷居が高い」という点だけは否定しておきたいと思う。

1冊読むコストはすごく安いしね。



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