2017年3月23日木曜日

【読書感想エッセイ】 牧野知弘 『空き家問題』

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牧野知弘 『空き家問題』

内容紹介(Amazonより)
地方も都会も、日本じゅう空(から)っぽの家ばかり!あと15年で1000万人減る人口。20140年には、10軒に4軒が空き家になる!住宅は、これからますます、コストばかりがかかる、無用で厄介なものになっていく。では、われわれはいったいどうすればよいのか……。第5回(平成26年度)『不動産協会賞』受賞、話題騒然のベストセラー、待望の電子化!
いやあ、すばらしい本だった。
空き家の問題を起点に、日本の社会構造や都市のありかたにまで切り込んでいて、しかもわかりやすい。
空き家の話から「日本の社会全体を大転換しないといけない」という話になるとは思わなかったなあ。



 空き家は今後も増えつづける


「空き家が増えている」というニュースは聞いたことがあったけど、正直、べつにいいじゃないかと思ってた。
「田舎から人が減ってるんでしょ。でもしょうがないんじゃない? 空き家のまま放っておけば?」
ってぐらいにしか思っていなかった。しょせん他人事だしね、って。

でも、どうもこれは日本全体の問題らしい。

今、日本全体で毎年20万戸の空き家が新たに生じているらしい。

 世帯数は今まで述べたとおり順調に増加を続け、その数は5000万世帯に迫っています。昭和58年(1983年)当時と比べると約43%の増加です。しかし、注目すべきは高齢者世帯の伸びです。
 昭和58年(1983年)を100として、高齢者が住まう世帯の数は平成20年(2008年)には209。世帯数全体の伸び143を大きく上回る増加です。さらに「高齢者単身世帯」に目を向けると、なんと420です。つまりこの25年間で98万6000世帯から413万9000世帯、約4.2倍の増加ということになります。
 世帯全体に占める割合も高齢者単身世帯で昭和58年(1983年)にはわずか2.8%にすぎなかったものが平成20年(2008年)では8.3%に膨れ上がっています。この調子で増加が続けば、日本の住宅の10軒に1軒はお年寄りの「おひとり」住まいということになってきます。

高齢者の単身世帯が多いということは、そのうちの大部分は、近いうちに住人が施設に移るか亡くなるかして、空き家になっちゃうってことだよね。
空き家は今後もどんどん増える。

田舎の話だけかと思ったら、東京でも空き家は増えている。
売りに出しているわけでもなく、別荘として使っているわけでもない、純粋な「空き家」の数は都内だけで2008年には18.9万戸もあるんだとか。しかも5年で34%も増えている。



 もはや土地や家は財産ではない


高級住宅地も、売れなくて困っているらしい。

こないだちょっと用があって、兵庫県芦屋市の六麓荘ってところを歩いたのね。
そこって関西では有名な超超高級住宅地で、有名な会社の会長さんとかがいっぱい住んでいて、120坪以上じゃないと分譲しちゃいけないってルールがある(一戸建ての平均坪数は40~45坪くらい)。
ぼくには無縁の場所だから、うわーすげえなー豪邸ばっかじゃーんってのんきに歩いてたんだけどさ。
ちょっとコンビニでも寄ろうかなって思ったんだけど、コンビニなんてまったくないの。スーパーもないし、もちろん個人商店もない。
駅からも遠いし、坂の上だから、いちばん近くの店に行くだけでもたいへん。
まあそういうところに住んでるぐらいの人だから当然高級車に乗ってるわけだし(ちなみにそのへんは国産車のほうがめずらしいぐらい)、ひょっとしたらお手伝いさんとかがいて自分では買い物なんかしないのかもしれない。
そんなわけで、大富豪の親戚が「おまえに六麓荘の200坪の土地と家をやる」って言われたとしても、車も持ってないしお手伝いさんも雇えないし掃除も嫌いなぼくには住めないから売るしかないな、って考えてたのね。まあそんな親戚いないけど。

でもそんな土地ってぜんぜん売れないんだって。
たしかに環境はいいけど不便だもん。特に歳をとって坂道をのぼるのも車を運転するのもできなくなったら、もう住めない。
おまけに高いから誰も買いたがらない。
だったら分割して売ればいいじゃんって思うかもしれないけど、高級住宅街って分割販売が禁止されてたりするから、そういうわけにもいかない。
固定資産税だけがガッツリとられて、持つ人によっては財産どころかへたしたら負債になりかねない。

「土地や家は財産」って考えが、もう通用しなくなってる。
ぼくの両親はまたぴんぴんしてるけど、60歳を過ぎているからいつまで元気でいるかわからない。
郊外の一戸建てに住んでるけど、ぼくがその家に住むことはたぶんない。通勤に不便だから。姉夫婦も家を買ったから、もし両親が死んだら、その家はきっと空き家になる。
無事に売れればいいけど、売れなかったら相続税と固定資産税がかかるだけの"負債"になる。
それどころか、家って誰も住んでいないと傷むから、メンテナンスをしなきゃいけない。
でも住まない家のためにお金を出したくない。家はどんどん老朽化する。ボロボロになって近所から苦情が出る。
誰も住まないんならいっそ取り壊して更地にしちゃえばいいじゃんって思うけど、解体費用もばかにならない。
おまけに、「住宅用地の課税標準の特例」ってのがあって住宅は更地にくらべて固定資産税が1/6で済むらしい。つまり、空き家を取り壊して更地にしたら固定資産税が6倍になるってこと。
こうして、どんどん空き家が増えていく……って構図らしい。

日本中で家が余ってる。田舎も都心も。
でもその一方で、家を欲している人はいて、新築住宅やマンションはどんどん建設されているし、あいかわらず家は何千万円もする。
片方では余っているのに、もう片方では足りない足りないと言っている。

なんでこんなことになってるんだ?



 建設業はとにかく人が足りない


こないだ建築の仕事をやっている友人と飲んだら、とにかく忙しいとこぼしていた。
「28連勤だったから、明日は1ヵ月ぶりの休みだ」と。
そいつの会社がブラックなだけかと思ったら、この本を読むと、どうも建設業全体が人手不足らしい。
家が余っているのに、なぜ建築で人手不足なんだ?


『空き家問題』によると、建設業に従事している人の数は、1995年から2010年にかけて、わずか15年で3分の2に減ってしまったんだとか。

 減少を主導したのは、平成13年(2001年)から18年(2006年)まで政権の座にあった小泉純一郎内閣における徹底した公共事業の削減と言われています。平成7年から13年にかけては公共事業関係費の予算は毎年度9兆円を超える水準でしたが、平成18年度には7.2兆円、その後の民主党政権時代の平成23年度には5兆円にまで大幅に削減されています。

公共事業が激減し、さらにはリーマンショックの追い打ちもあり、建設会社がどんどんつぶれた。職を失った人は他の仕事につき(自殺した人も多かっただろうね)、新たな社員を採用する余裕もない。
その結果、建設業従事者は3分の2に減ってしまった。

ところがその数年後。
東日本大震災が起こり、復興工事の仕事が大量に発生した。さらに東京オリンピックの開催も決まり、スタジアムや関連施設の建設で人手が必要になった。
だが、辞めてしまった人はかんたんには戻ってこない。今から採用しようにも、建築技術は一朝一夕には身につかないから、熟練の技術が必要になる仕事には就けない。
仕事はあるのにそれをできる人がいない。
建設業の人件費は高騰し、資材も高騰。工事車両も減っているわ、長距離トラックの運転手も不足しているわで、今、家やビルの建設費はめちゃくちゃ上がっているそうです。

建設費が上がっても高い値段で売れるならいいけど、平均所得は上がっていないから多くの人には手が出ない。
というわけで建設会社も新たな土地は積極的に買おうとしない。高い建設費で建てても売れないからね。
土地が売れないから空き家も売れない。
で、空き家が増えていく。と、こういう図式らしい。



 空き家問題は日本の問題そのものだ


あまりにややこしいから、ぼくなりにまとめてみたよ。

空き家増加の要因

こうやって見たらわかるけど、「空き家の増加」という現象の背景には、少子高齢化が進んでることとか、若年層の低所得化とか、ライフスタイルの変化とか、必要かどうかもわからない東京オリンピックをやることになっちゃったこととか、いろんな「後回しにしてきたツケ」があるわけなんだよね。
「いずれ何とかなるだろ」が「空き家の増加」という形で一気に噴出したわけで、しかも悪化することはあっても快方に向かう兆しはまったく見えないというのが現状。東京五輪が終われば人材不足や資材の高騰は多少収まるだろうけど、それはそれで不況を招きそうだし。

「どっかで誰かの家が空き家になってる」だけの問題じゃないんだね。



 どうやって解決したらいいんだろう



もう空き家問題は、過疎化の進む田舎だけの問題じゃない。
東京ですら例外じゃない。

 今後首都圏や東京で起こるのが、「高速高齢化現象」です。第1章で触れたように、現在東京で人口の中核を占めている段階の世代を中心とした高齢者が、一気に後期高齢者の仲間入りを果たしていきます。そして彼らが自分の家を空き家にした上で、病院のベッドを独占し、介護施設は入所を待つ老人たちで溢れかえることになります。 今ですら高齢者施設はまったく足りず、たとえば東京の世田谷区では待機高齢者の数は2200人、施設の供給が需要に追い付かない状況にあります。この状態でさらに大量の高齢者が供給されることが確定しているのが、東京という都市なのです。
(中略)
 東京に老人が溢れる。病気などしたら、満足な医療も受けられない。介護施設は満員。行き場のないお年寄りがうろうろと徘徊する東京。あまり良いシナリオをこの街で描くことができません。こんな東京でまだマンションが売れてオフィスはどんどん供給され、ここに大量の人たちが働き、住まう。どうも、こういう映像がぼやけてしまいます。

空き家問題を解消するための対策として、著者は「コンパクトな都市づくり」を挙げている。
市街地の拡大を抑え、道路やインフラなどの整備費用を抑える試みだ。
富山市や青森市で実践されているらしいが、今のところ成功を収めているとは言いがたい状況らしい。
とはいえ。
これから先、ほとんどの地域で人口はどんどん減る。おまけに高齢化が進む。
車移動に頼った生活は必ず限界が来る。

コンパクトな都市を作るのが正解かどうかはわからないが、少なくとも今までの都市を持続させようとしたら近いうちに必ず破綻する。
しかし20年後に生きている都市をつくろうと思ったら、ほとんど一から都市設計をやりなおさなくてはいけないし、そのせいで損をする人はいっぱいいるだろう。
ものすごく利害対立が発生するから、まちがいなく難航する。
かつて経験したことのないほどの人口減少社会になるのだから、過去の成功事例はまったくあてにならない。


都市の設計方法についていろんな意見はあるべきだと思うけど、「20年後に生きているかどうかわからない」人の言うことは聞いてはいけないと思う。
「自分が死ぬまで保てばいいや」の積み重ねが今の状況を招いたのだから。



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