2017年1月19日木曜日

【読書感想文】 こだま 『夫のちん●が入らない』(Googleから検閲が入ったので一部伏字)


こだま 『夫のちん●が入らない』

(Google様から検閲が入ったので一部伏字にしています)
内容紹介(Amazonより一部抜粋)
“夫のちん●が入らない"衝撃の実話――彼女の生きてきたその道が物語になる。
2014年5月に開催された「文学フリマ」では、同人誌『なし水』を求める人々が異例の大行列を成し、同書は即完売。その中に収録され、大反響を呼んだのが主婦こだまの自伝『夫のちん●が入らない』だ。
同じ大学に通う自由奔放な青年と交際を始めた18歳の「私」(こだま)。初めて体を重ねようとしたある夜、事件は起きた。彼の性器が全く入らなかったのだ。その後も二人は「入らない」一方で精神的な結びつきを強くしていき、結婚。しかし「いつか入る」という願いは叶わぬまま、「私」はさらなる悲劇の渦に飲み込まれていく……。
交際してから約20年、「入らない」女性がこれまでの自分と向き合い、ドライかつユーモア溢れる筆致で綴った“愛と堕落"の半生。“衝撃の実話"が大幅加筆修正のうえ、完全版としてついに書籍化! 


この本の感想はこちら






2017年1月16日月曜日

【エッセイ】パンツの色と防災意識

旧友たちと話していて
「なぜイタズラ電話魔は、女性にパンツの色を尋ねるのか」
という話になった。

実際に遭遇したことはないけれど、漫画の世界では、イタズラ電話といえば
「ねぇねぇ、お姉さんどんなパンツ履いてんの? ハァハァ……」
ってのが定番になっている。

考えてみれば、とても効率の悪そうなイタズラだ。

まず、無作為に電話しても好みの女性にたどりつけるかわからない。
相手がどんな人かを判断する手がかりも、声しかない。
女性にとって答えるメリットのない質問だから回答率は低そうだ(せめて「下着に関するかんたんなアンケートに答えるだけでQUOカード500円分が当たる!?」みたいにすればちょっとぐらいは答えてくれるかもしれないのに)。

だいいちそこまでしても得られるのが「どこの誰だかわからない人の下着の色」というわずかな情報だけなのが、割にあわない気がする(じゃあ何ができたら割りにあうのかという疑問は今は置いておく)。



「そもそもパンツの色なんか訊かれたって、答えたくても答えられないよね。自分が今日はどんな色の下着を身につけてるかなんて、意識してないもん」

ぼくが云うと、その場にいたひとりの女友だちが首を振った。
 「あたしは言えるよ。自分が今日はどんな色の下着してるか」
「えっ。うそ」
 「ほんと」
「見なくてもわかるの」
 「わかるよ。女の人はだいたい把握してるんじゃないかなあ。自分が今履いてるパンツの色を」
「じゃあ今は?」
 「んー黒」
「見せて」
 「それはやだ」
「なんでパンツの色なんか覚えてるの」
 「だってほら。何が起こるかわからないじゃない。とんでもなくかっこよくて優しくて大金持ちの男の人と知り合って、その日のうちにゴニョゴニョならないともかぎらないでしょ。そのときになって今わたしどんな下着してるっけ、ってあわてるわけにはいかないじゃない。だから常に把握してる」
「えー。そんなアバンチュールに身を任せちゃうタイプなんだ」
 「いや、ないけど。30年生きてきてそんなこと一度もないけど。でも一応備えておくのが女のたしなみってやつよ」

すごい。
素直に感心してしまった。
はたして彼女のいうとおり女性はみんな自分の下着の色を把握しているのだとしたら、女性たちはなんという緊張感の中に身をおいて生きているのだろう。

はっきりいってぼくにはそんな緊張感なんぞ皆無である。
パンツを履いた1分後にはもうパンツのことなんて忘れている。
ぼくのもとにイタズラ電話がかかってきて「ねえねえ。今どんなパンツ履いてるの?」と訊かれたとしても、きっと答えられない。
「あーわかんないなー。ヒントちょうだい。それか3択にしてくんない? せめて履いてるか履いてないかだけでも教えて!」とか言っちゃいそうだ。

自分のパンツの色を把握している人は、いつ来るかわからない地震のためにちゃんと防災グッズを用意している人だと思う。
不測の事態に対する備えが完璧なタイプ。
万が一の状況への意識の差がこういうところに表れているのだ。

ぼくみたいにセンサー感度が低い人間は、地震のときに逃げ遅れたり、美女とのアバンチュールという千載一遇のチャンスをよれよれのパンツのせいで棒にふってしまったりするのだろう。


そうか。

イタズラ電話の主は、パンツの色そのものを知りたいのではなく、この質問に即答できるかどうかを探ることによって生物としての危機回避能力の高さを確かめようとしているのかもしれない。




2017年1月7日土曜日

借りパクの証

同僚が1か月くらい前から急に会社に来なくなって、そのまま辞めちゃった。

それはまあいいんだけど、問題はそいつにDVDを貸していたってこと。


それも、1枚じゃない。
貸していたのは、古畑任三郎のDVD-BOX。
しかもシーズン2。
ぼくのいちばん好きな風間杜夫の回や、丁々発止のやりとりが存分に味わえる明石家さんまの回や、 派手さはないがあっと驚く謎解きが味わえる澤村藤十郎の回が収録されている、シーズン2。
ミステリとしてもコメディとしても最も脂の乗っていたシーズン2。

そんな大切なDVD-BOXが、借りパクされようとしている。



ぼくがこの世でいちばん憎い犯罪は、借りパクと傘泥棒だ。

なぜなら、借りパクも傘泥棒も、「被害者が受けたダメージのわりに、加害者の罪の意識が小さすぎる」からだ。


ぼくはまだ人を殺したことがないけれど、人を殺したらものすごく罪の意識を感じるだろう。
毎晩うなされるかもしれない。
それがふつうの感覚だ。

サイコパスの快楽殺人犯だったら、後悔したり反省したりはしないかもしれない。
だけど、少なくとも「自分は犯罪をした」という自覚ぐらいは持つにちがいない。

それなのに、借りパクするやつと傘泥棒は、ほとんど罪の意識を感じていない(たぶん)。
寝る前に「なんであのとき傘を盗んでしまったんだろう……。取り返しのつかないことをしてしまった……」と激しい自責の念に駆られたりしない。
「ちょっと借りとくね。もしかしたら返すかもしれないし」ぐらいの気持ちだと思う。

それがぼくには許せない。
ぼくの傘を盗んだ犯人には、一生「おれはあのとき傘を盗んだ」という罪の意識を背負って生きていってほしい。
できることなら、傘を盗んだ自分への戒めとして、己のひたいに傘の形のタトゥーを入れてほしい。
そこまで反省するなら許してやってもいい。



ぼくのDVDが借りパクされようとしている。
これはつまり、かつての同僚が、世紀の大犯罪者になろうしているということだ。

黙って見過ごしていてよいのだろうか。
否。
ぼくには政治がわからぬ。
しかしこのぼくが、奴がダークサイドに堕ちるのを止めてやらねばならぬ。


さいわい、奴のLINE IDを知っていた。

とはいえ、いきなり「おいDVD返せ」とぶしつけなメッセージを送るほど無神経ではない。
まずは退職する同僚への惜別の挨拶を告げ、ふと思い出したかのように「DVD返して!」と告げた。


で、返ってきたのがこのメッセージ。



それから、待てど暮らせど次のメッセージが来ない。

え……?


「お借りしっぱなしでした!!!!!すみません。。」

ここまではわかる。

ふつうはこの後に
「返します! 会社に持っていけばいいですか?」
とか
「郵送するので自宅の住所教えてください!」
とかあるはずだよね……。

え? え?

もしかしてさっきの「すみません。。」って、「借りパクするけどすみません。。」ってこと!?



おいっ!!

DVD返せ!


それかひたいに「シーズン2」ってタトゥー入れろ!!






2017年1月4日水曜日

切ない積み木

3歳の娘を連れて近所のおばあさんの家に行ったら、積み木やぬいぐるみをいっぱいくれた。

その家には娘がふたりいる。ふたりとも40歳を過ぎている。

長女は結婚して家を出ている。12歳と9歳の子どもがいる。
次女のほうは独身だ。まだ実家にいる。


さて。
それをふまえて、ぼくの娘がもらった積み木とぬいぐるみについて考えてみた。


けっこう年季の入ったおもちゃだ。

今では40歳を過ぎた娘たちが、幼い頃に遊んでいたものだろう。

やがて彼女らは成長し、おもちゃで遊ばなくなる。
でも、数々の想い出が詰まったものだから捨てられない。

「いつか孫ができたときのためにとっておこう」
そう考えて物置にしまう。



やがて長女は結婚し、孫ができる。

孫たちが遊びに来たので、物置から積み木とぬいぐるみをひっぱりだしてくる。

かつて娘が遊んでいたおもちゃで、孫たちは喜んで遊ぶ。こんなにうれしいことはない。



しかし孫の成長はあっという間。
彼らもやがてぬいぐるみでは遊ばなくなる。

でもやっぱり処分はできない。

いつか次女に子どもができたときのために……。
そう思ってふたたび物置にしまいこむ。



ぼくの娘がもらいうけたのは、その積み木とぬいぐるみなんだと思う。

ということは、つい最近、「次女が結婚して子どもを産む」ことをあきらめたのではなかろうか。

だから、他人であるうちの娘にぬいぐるみをくれたのではないだろうか。



ううむ。

そう考えると切ないものがある。

ぜんぶ勝手な想像だけど。



とりあえずぼくは、同じ思いをしないよう、ひな人形を早めに片づけようと思う。
3月3日の午前中のうちには片付けようと思う。